デジタルを嫌う出版社を素通りする市場

デジタルを嫌う出版社を素通りする市場

TIBF_banner東京国際ブックフェア(TIBF)は、24回目となる今年の開催を休止し、2018年9月の開催を目指すことを決めた。2016年に電子出版EXPOが消え、一般消費者向けの「純粋な『読者イベント』」として再出発したTIBFはさらに漂流することになる。ニューヨークのDigital Book World (DBW)も1月が最後となりそうだ。何が起きているのだろう。

市場に背を向ける出版業界の運命

TIBFは書籍産業全体のイベントであり、米国のBook Expo America (BEA)、ロンドンのLondon Book Fair (LBF)、パリの Salon du livre、北京の国際ブックフェア  (BIBF)、そしてフランクフルトのブックフェアと並ぶ存在だ。ブックフェアは、国の文化産業の国際的影響力を反映する重要なイベントだが、DBWデジタル出版の専門イベントで、直接の比較には無理がある。

とはいえ、日本の場合は、EXPOがBFを支えるようになっていたし、一時は多くのスペースを占めていたほどだ。BFが開けなくなったのは、「電書」が方向性を失った結果だろう。2012年に始まったはずの日本の「電書紀元」は5年で終わり、大地震にも揺るがなかったブックフェアは休止に追い込まれた。わが国の出版の支柱であるマンガ市場がデジタルに移行しつつある中で、これは両方を捨てるようなものだ。

DBW2DBWは、メディア業界のB2BサービスのF+W社が主催し、2010年以降米国出版メディア企業とITビジネスの出会いの場となってきた。出版界のデジタルへの関心が高まり、大手出版社のデジタル売上シェアが急成長して20%を超えた2013年までは勢いがあり、日本から訪れた人も少なくなかった。2007年に始まったオライリーのTools of Change Conferenceは2013年に終了しているが、ビッグファイブが大幅値上げという「焦土戦術」で市場を混乱に陥れるまでは、DBWはデジタル出版における最もハイレベルなイベントだった。しかし、主要スタッフが去り、昨年からエキスパート・ブログの更新が遅くなり、ニュースが入らなくなっていた。

<マーケティング+テクノロジー>は出版のコアビジネス

TOC_Logo_3E-Book、A-Bookは市場として成長しており、BEAやLBF、フランクフルトでも併催イベントはある。間に合っている、という人もいるだろう。しかし、出版の世界でテクノロジーとマーケティングのプロフェッショナルが出会う場は重要である。それは出版の「未来」に関わるものだからだ。いまはまだ版権ビジネスの中心は印刷本にあるが、著者がデジタル版権を一括で売却せずに管理するようになれば、デジタル版権はほかで取引され、ブックフェアは縮小せざるを得ないだろう。大出版社が広大な商談スペースを使用する欧米のブックフェアは、印刷本ブランドと書店の繁栄に依存しているのだ。

出版業界は、エージェントよりも著者、読者と向き合わねばならない。書店の衰退、いまや全フォーマット市場で過半を占めるアマゾン・チャネルの拡大とともに出版ブランドの価値は低下している。DBW(あるいは電子出版EXPO)のような専門イベントは「背水の陣」にある出版業界こそが有効に使うべき場だ。なぜなら「デジタル」はE-Bookという「新フォーマット市場」をめぐる問題などではなく、社会のデジタル転換のさ中にある出版の未来に関わることだからだ。出版は、印刷物を上梓・開版し、卸販売する伝統的なビジネスとは離れつつある。読者は重要な顧客であり、大出版社やベストセラー作家のブランドに拝跪するばかりの存在ではない。

<コンテンツ+マーケティング+テクノロジー>をアマゾンに任せている限り、出版社は業界の「裸の王様」になり、印刷本はアンティークに回ることになろう。2013年に動きの速さに恐怖した業界が、時間を止めようとしたことはやむを得ぬ過失かも知れない、しかし3年経って失敗が明らかになっても何もしないのは歴史に残る過失だ。◆ (03/09/2017)

デジタルを嫌う出版社を素通りする市場

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です