グローバルに展開する「インディーズ」

グローバルに展開する「インディーズ」

AuthorEarnings-280x150AuthorEarnings (AE)が3月7日、米国だけでなくその外側にある英語圏市場を対象に含めた新しいレポートを発表し、米国以外でもインディーズの進出が顕著になっていることが明らかになった。英国については2015年10月以来となるもの。相対比では米国市場の4分の1の規模となる他の3ヵ国は重要な自主出版市場となりつつある。

米国8割、アマゾン8割

レポートは短くないので、今回は要点だけをご紹介したい。
2月に行われた調査では、英語圏の5ヵ国(米、英、加、豪、新)、15のE-Bookストア、全分野のタイトル上位75万点(うち2万点についてはローデータと対照して検証)を対象としている。その結果英語E-Book販売の数字としてはほぼ完全にプロフェッショナルな品質となっていると思われる。

  • 年間の金額ベースでは、米国が77%、英国が15%、カナダが4%、オーストラリアが4%。country-bars-all-redux-768x577
  • ストアでは、アマゾンが83.3%、アップルiBooksが9%、Nook、Koboがそれぞれ数パーセントというところ。金額ベースでも、同様な傾向。

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  • 出版タイプ別販売点数の内訳では、アマゾンではインディーズが35%、大手5社が23%、中小出版社が19%であるのに対して、アップル他では大手5社の比率が高く(アップルで54%、Koboで46%)、インディーズは20%前後に止まる。

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グローバルに展開するインディーズ本

AERは著者にとっての「ビジネスモデルの選択」を支援するために、サイバースペースから得られるビッグ・データを駆使して市場の実相(とくに著者実収総額)を明らかにする、という著者によるイニシアティブであり、オンライン取引が書籍コンテンツ市場の過半を超える中で、既成の調査機関が機能不全に陥っている中で、明らかにしたことは膨大といえる。インディーズ出版の発展への貢献度では、アマゾンを別とすれば最大であったと思う。AEに近いのは、1億ドルを調達するまでになったKickstarter くらいだろう。

indie4著者は原稿を渡し、大小の出版社が出版を行い、販売収入を得て著者への清算・決済を行うというのが欧米でも常識であったことは言うまでもない。印刷本の発行には相当なコストが掛かり、また取次や書店との交渉や清算など、煩瑣で、また専門性が高い流通・販売に著者が首をつっこむことは現実的ではなかったからだ。印刷本とまったく性質の異なるE-Bookは、こうした常識を覆し、「自主出版」というビジネスモデルの有効性を数十億ドル規模の市場として実現した。

著者にとって、書店販売がいかに重要でも、十分な対価が伴わなければ意味はないが、E-Book収入が職業的に重要な作家が自主出版を選ぶ動機が生まれ、それは (1)出版社と契約できなかった無名作家やボーダーライン作家から、(2)出版社のE-Book版権料に不満を持つ職業作家、(3)自らの出版をプロデュースしたい大物、へと拡大していった。いわば、新人→中堅→大物へと利用が拡大していったわけで、それを反映して世間の評価が変わってきた。「ゴミの山」という声がしだいに聞かれなくなったのは、書評などの評価システム、著者ブログなどが機能して、印刷媒体に依存しない「読書空間」が形成されていったためだ。

こうして自主出版は不動のビジネスモデルとなった。出版社にとって想定外だったのは、既成出版社を脅かす存在となったことだ。版権市場は売り手市場に近づき、印刷版も販売できるアマゾンの影響力は拡大を続け、書店業界へのプレッシャーは強まった。アマゾンはさらにグローバル市場への展開でも大手出版社の優位を崩しつつある。今回のレポートはとくにこのことを示している。◆ (03/09/2017)

グローバルに展開する「インディーズ」

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