「音声+スマート」の新成長戦略 「スマート」

「音声+スマート」の新成長戦略 (3)スマート

ai-280x150出版におけるデジタルが「フォーマット」だけに止まらないことは本誌がしつこく言ってきた。とはいえ、そこを越えなければ何も始まらないことも動かし難かった。Kindleの10年は、版に縛られたグーテンベルク以来の出版がもはや規範ではなく、回帰も不可能であることを示した。最初に独立したのはオーディオブックだが、影の主役が「スマート」であったことは見逃せない。

顧客第一に最適化したアマゾンのAI

customer-orienation筆者は「ダイナミックでインテリジェント」な出版を目指してきたのだが、これらのキーワードはもっぱらWebで進化し、有償コンテンツ(商業出版)ではほとんど進まなかった。Kindleは積年の課題をほぼ解消したが、そのやり方は既存の出版エコシステムの外に新しい(仮想的)出版=読書空間を構築するという予想外のものだった。それを可能にしたものこそ「スマート=AI」である。アマゾンのAIは「顧客第一」という明確なフォーカスがあり、方法論とプロセスを持っているところが他社と違うと筆者は考えている。

AIは人間の知識・思考をシミュレートして計算機に仕事をさせる技術だが、最も重要なことはコンテクスト(5W1H)とロジックで、この両方をモデル化して連携させ、最適な結果を得られるように機能させるようにシステムをデザイン・実装・運用・評価というサイクルを回さなければならない。しかし、この人工システムの運用には「最適」という、きわめて政治的(権力的)、人間的な要素をロジックとしてルール化しなければならず、巨大組織ほど「最適」が定義しにくいという問題がある。単純に言えば、個人のキャリアやポストや評価に関わる。そんなことができる組織はざらにない。その上、AIでは個々の技術だけでは意味を持たない(結果が出ない)ことがほとんどで、それがAIの実用化に時間がかかった原因だ。

business-insight-the-ai-based-business-intelligence出版は、「著者」による創作・著述に始まり、編集・制作、販売・流通を経て「読者」による読書という行為に至る長いプロセスまでのサイクルと考えることが出来る。アマゾンは言うまでもなく書店だが、「流通」だけを切り離して考えようとしなかった。プロセスの全体を機能させるために、不合理なもの、不要なもの、邪魔なものを迂回する「別のサービス」を設計、構築し、機能させる。そこでは過去のしがらみや現在のシェアすら問題にならない。アマゾンは新聞や雑誌の書評の代わりに読者レビューとレイティングを機能させた。それがプロモーションにおいて広告に勝ることは実証されている。

Webの世界の膨大な情報は最初からデジタルになっているので、計算機が読み、評価し、業務に活用することが容易だ。ビッグデータである。ただし、そのためにはコンテクストとロジックを明確で定義できるだけの「知識」と「思考力」で組織を動かせる人間が必要だ。データもAIも手に入りやすくなったが、人間の能力(×権限×責任)はどんどん小さくなっている。アマゾンはAIを生かせる会社を最初につくった。20世紀型組織には難しい。アマゾンKindleに勝つにはまずその顧客第一に近似化するしかないのかもしれない。 ◆ (01/25/2018)

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