読売社説7月19日

電子図書館 補完的活用で読書機会保とう 

2020/07/19 05:00

 新型コロナウイルスの影響を受け、図書館の休館や閲覧制限が課題となっている。電子書籍を貸し出す「電子図書館」サービスの補完的活用を考えてもよいのではないか。null

 公共図書館の対応を調査した研究者らによると、全国の休館率は緊急事態宣言下の5月初旬で、9割を超えた。すでに大半が活動を再開したが、閲覧用の席数を絞る例も目立っている。

 来館者に対する本の貸し出しや資料調査への協力が困難となった時期に、急伸したのが電子図書館の利用だ。大手サービス会社では、5月の貸し出し実績が前年同月の5倍を上回ったという。

 公共図書館では、紙の本と同様に貸出冊数や期間を定め、約10年前から普及し始めた。図書館を設置する自治体の7%程度にとどまるが、地域住民の来館が制約されるケースを考えれば、代替手法としては有益と言えよう。

 これまで公共図書館は、紙の本を前提に活動してきた。絵本の読み聞かせや生涯学習を支援し、地域社会への貢献も高まっている。まずは来館者が安心できる感染対策を取ることが大切だ。

 こうした平常の役割が果たせない場合も、読書の機会は維持してもらいたい。電子書籍でも、紙の本に親しむ習慣を保つ効果はあろう。蔵書の充実とバランスを取りながら、電子図書館サービスを導入することは検討に値する。

 読書バリアフリー法では、障害者の読書環境の整備が求められている。一部の電子書籍には自動音声の読み上げ機能があり、視覚障害者向けにも役立つ。

 今回は大学図書館の利用も制限された。特に人文系分野では、研究者や学生が絶版などで入手困難な文献を調査できないという。

 学術・研究用に、1冊を同時に閲覧できる上限を引き上げる期間限定の措置を取った電子図書館サービスもある。提供元の出版社の了解を得ており、時宜にかなった取り組みだろう。

 著作権法上の制約から、利用が停滞しているのは、国会図書館が運営する電子図書館事業だ。

 所蔵資料274万点をデジタル化しているが、うち220万点は国会図書館内か公共・大学図書館でしか閲覧できない。ともにコロナ禍で休館や来館制限を余儀なくされ、利用しにくくなった。

文化庁は図書館のデジタル化対応策として、著作権法の権利制限規定を見直す方向だ。著作権者や出版社が不利益を被らないよう、多角的な議論を重ねてほしい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です