電子図書館

電子図書館 九州でも導入加速 コロナ禍が後押し 福岡、長崎市

インターネットを通じて電子書籍を借り、パソコンやスマートフォンなどで閲覧する「電子図書館」を導入する動きが、九州の公立図書館で広がってきた。福岡県立図書館で10月にスタートしたほか、福岡、長崎両市の図書館が今年度中に貸し出しを開始する。新型コロナウイルスのため一時休館するなど、運営に大きな支障が出たことが、追い風になっている。(永尾和夫)

■「いつでも、どこでも」

「コロナ禍で図書館に来られないという県民もいるので、こうした人たちへのサービスということもあり、急遽(きゅうきょ)導入を決めた」

 10月15日から電子書籍の貸し出しを始めた福岡県立図書館の担当者は、導入の経過をこう説明する。

同図書館は大手書店と契約し、電子図書館システムを導入。図書館のホームページで、利用者カードを使ってパスワードを設定し、電子図書館にアクセスすれば、パソコンやスマートフォンなどで必要な図書を閲覧することができる。15分間以上読まれていない状態になっている図書は、貸し出しができるシステム。

初年度の費用は300万円で、辞書や図鑑、専門書を中心に240タイトル(冊)を貸し出している。「県立図書館の性格から、ベストセラー小説などは置いていないが、これまで貸し出しができなかった辞書類や医学書などの専門書も閲覧が可能になった。カラフルな図書が人気」という。「いつでも、どこでも」をキャッチフレーズに来年度は、貸し出し図書の拡充を図る考えだ。

福岡県内ではすでに田川、宗像、行橋、春日の各市が電子図書館を導入。福岡市総合図書館でもコロナ禍をきっかけに今年度中の導入を決めた。「電子図書館の導入計画は長期ビジョンにあったが、一時休館に追い込まれたこともあって9月に補正予算を組んだ」

6月に導入した春日市では一週間に3冊貸し出しでき、名作や実用書がよく読まれているという。

■貸し出し数が3倍に

県庁所在地の図書館で、いち早く電子図書館を導入したのは熊本市だ。同市はシステムの変更作業に合わせ、昨年11月にスタートした。昨年度は9700冊の貸し出しで始めたが、コロナ禍に見舞われた今年度は6700冊を追加した。昨年度の月平均貸し出しは1983冊だったが、今年度はコロナ禍の影響もあり、6579冊と3倍に急増した。

利用者の4割は小中学生。坂本三智雄館長は、その理由について「貸し出しには学校の図書カードがそのまま使えるようになっており、学習に活用しているようだ。見るだけでなく、虫や鳥の鳴き声も聞こえる。日本昔話のように英語でも読めるようになっている本もあり、活字になじみのない世代にも楽しく読める点が好評だ」と説明する。

長崎市図書館でも今年度中にスタートさせることにしており、予算案を今議会に上程中。「新しい生活様式の一環として、図書館の運営の在り方を模索していきたい」としている。

大分県では、豊後高田、佐伯両市が導入済み。宇佐市でも11月末からスタートしたばかり。同図書館では一時、ファクスやメールで貸し出しの予約を受け、館員と直接触れない形で業務を続けてきた。「電子図書館であれば、コロナ感染の心配がない」という。

九州ではこのほか、佐賀市や大分市でも検討を始めており、電子図書館の開設はさらに増えそうだ。

減少続く書籍貸し出し

 電子書籍事業関連の業者でつくる電子出版制作・流通協議会(東京)によると、11月現在の導入自治体は全国で111。毎月数カ所ずつ増加しており、ウイズコロナの時代を迎え、さらに加速していく勢いだ。

全国の県立図書館の貸し出し冊数は平成22年ごろから減少傾向をたどっており、福岡県も横ばいの状態だ。文字が拡大でき、一部には読み上げ機能もあるなど、年配者にも便利な電子図書館。導入自治体が増え、導入コストの低下が進めば「いつでも、どこでも」閲覧できる電子図書館は、図書館活性化のカギになりそうだ。

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