刑事摘発に意義がある―― 集英社が海賊版サイト「漫画BANK」との闘いの裏側を告白

漫画海賊版サイト「漫画BANK」の運営者の住所、氏名、IPアドレスなどの情報について、米国の裁判所がGoogleなどに開示命令を出したことを受け、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館の出版4社と顧問弁護団が声明を発表しました。ねとらぼでは出版4社の1社・集英社を取材し、海賊版サイトとの闘いの裏側を聞きました。 【画像で解説】漫画BANKの手口

KADOKAWA、講談社、集英社、小学館の出版4社と顧問弁護団の声明

 KADOKAWA、講談社、集英社、小学館の出版4社と顧問弁護団は、巨大海賊版サイト「漫画BANK」に対して、開設直後の 2020年初頭より削除要請送付など対策を開始する一方、運営者特定に向けて動き出しました。  2021年3月、集英社作品の侵害事実でCloudflare社、Amazon Web Services社に対して情報開示命令を米国裁判所で取得致しました。その後、開示された情報等をもとに、同年10月、米国のISP、Google社に対して米国で情報開示を申し立て、11月12日に裁判所が開示命令を出しました。  今後は、開示された情報を精査して、4社で対応を検討してまいります。我々出版社は、著者が心血を注いで作り上げた作品を守るため、引き続き、海賊版サイトとは徹底的に戦っていきます。

漫画BANKとは

 2019年12月ごろに開設された漫画BANKは、2021年11月4日に閉鎖するまでの合計アクセス数が、9億9370万に達した巨大海賊版サイト。著者や出版社に許可を得ずに漫画作品を投稿し続け、最盛期のアクセス数は月間8000万を超えるなどポスト「漫画村」とも呼ばれていました(※)。 (※)アクセス数は一般社団法人ABJ調べ

出版4社と海賊版サイトとの闘い

KADOKAWA、講談社、集英社、小学館の出版4社はこれまで、海賊版サイトを発見次第サイト運営者や海賊版サイトが使っているサーバーへの削除要請を行ったり、検索エンジンの検索結果に海賊版サイトのトップページを表示させないように要請したりといった対応を行ってきたとのこと。そして、それでも運営をやめない海賊版サイトにはさらなる法的手続きも実施してきたとのことです。  そんな中でも「漫画BANK」は削除要請に一切応じない確信犯的なサイトとして認識されていたと言い、出版4社は海外の調査会社などを使って運営実態の解明に注力してきました。  こうした調査に加えて、顧問弁護団は法的な手段にも踏み切り、2021年3月には漫画BANKにサーバーを提供していたAmazon Web Services(AWS)と、画像転送サービスのCloudflareに対して、デジタルミレニアム著作権法に基づく開示手続(通称:DMCAサピーナ)を申し立て、同年4月5日には米国の裁判所が開示命令を出しました。これを受けて同年4月29日にはCloudflareが情報を開示したほか、同年10月にはAWSも情報を開示しました。  顧問弁護団の一人、中島博之弁護士(東京フレックス法律事務所)はDMCAサピーナについて、「この手続きでは運営者に直接的に紐づく情報は得られなかったが、運営者がCloudflareにログインするために使っていた独自ドメインのメールアドレスを得られた。漫画村の運営者特定に至った際にも独自ドメインが突破口になったため、大きな手掛かりになると考えた」と振り返ります。  そして得られた情報をもとに独自ドメインを利用している人物が中国・台湾といったアジア圏のIPアドレスを使っていたこと、メールエクスチェンジャー(メールアドレスのドメイン名を管轄するメールサーバー)にGoogleのサービスに関連するものを使用していたこと、アドセンスやGoogleアナリティクスを使用していることなどから、2021年10月27日にはGoogleに対して合衆国法典第28編第1782条(28 U.S.Code§1782)に基づく開示手続(通称:フォーリンサピーナ)を行い、米国の裁判所が11月12日に開示の申し立てを認めました。  申し立てから1カ月足らずでの開示命令について中島弁護士は「判断に半年程度かかる可能性もあったので、今までの手続きの中で最速での開示判断と言える」と話し、「本件は米国の裁判所に申し立てを認めてもらうため、IT・技術的な部分についても丁寧な説明が必要だった。宣誓書だけでも10ページを超えるなど、100ページ超の申立書を作った甲斐があった」と話しました。

中島弁護士「漫画原作者としても許せない」

 11月4日には「漫画BANK」の閉鎖を発表した運営者について中島弁護士は『弁護士・亜蘭陸法は漫画家になりたい』の原作者としても活動していることから、「週刊連載の場合、早朝までかかって原稿を作るということもザラで、漫画家の先生もスタッフの方々もギリギリまでいい作品にしようと粘って頑張っている。クリエイターが心血を注いで、いろいろなものをすり減らして作った作品を何の創作の苦労もしていない海賊版サイトが盗んでお金を稼ぐという行為は本当に許せない。漫画原作者としての活動を始めたことで、より許せない気持ちが強くなった」「出版社4社がどんな対策をしているかについては運営者に証拠隠滅の機会を与えることになるので、犯人が逮捕されたときなどにしか発表できいのが心苦しいが、これまでも大変な苦労のもと海賊版サイト対策を行ってきている。今回は海外でニュースとして先に出てしまったのでこうしてお話しした」と語りました。  また今回、出版4社のうちの1社、集英社で海賊版対策に携わる伊東敦編集総務部部長代理がねとらぼの取材に応じました。  「STOP!海賊版」キャンペーンを行う一般社団法人ABJの広報部会長としても活動する伊東部長代理は、「作家からお預かりした努力の結晶である作品を守るため、出版社はありとあらゆる努力をしている。作家の身を削った努力を盗み取り、自分の利益だけを考えている海賊版サイトを許せないという思いは、私が海賊版対策に携わったころ(10年以上前)から変わらない」としました。  また海賊版サイトに対しては「『漫画村』や『はるか夢の址』のように基本的には刑事摘発が抑止効果の面でいちばん有効」だとも語り、漫画BANKについても一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が中国と連携していることから、「情報が開示されれば精査して、刑事、民事、あらゆる可能性を検討することになるだろう」とのことでした。

漫画BANKでタダ読みされた総額は2082億円相当

一度はサイトを封鎖しつつ、新たな動きも見せている「漫画BANK」。2019年12月のサイト開設から2021年10月まででタダ読みされた総額は2082億円相当(約9億9370万アクセス)と、大きな被害を出しています(※)。 ▼▲(※)アクセス数は一般社団法人ABJ調べ  こうした被害の背景には、海賊版サイトの運営をほう助しているともいえる匿名性の高いサービスが存在することに加え、海賊版サイトであることを理解したうえでアクセスする利用者の存在があります。日本の文化でもある「漫画」を守るための闘いは、今日も続いています。

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