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拡大・定着した米国自主出版(1):デジタルも紙も

米国のISBNを管理するバウカー社は、過去5年間 (2013-18)の自主出版の動向 (PDF)をレポートし、ISBNに基づく同社データベースの自主出版本が、前年比40%増の160万点に達したことを明らかにした。過去の実績から見ても出版点数はさらに発展し、商業出版と並んで出版の重要な一角を占めることになるだろう。そしてその9割以上が印刷本だ。

アマゾンが支える市場

本誌読者はご存知のように、米国の出版統計は、紙とデジタルに分裂しており、自主出版のかなりの部分(とくに書店を経由しない本)は、有償のISBN登録を回避している。したがってバウカーの自主出版レポートは、Bowker Books In Print データベース所載のうち、出版社コードを持たない出版物のデータを基にしている。書店で扱う可能性のある自主出版印刷本で、それ以外のほとんどを除くという、ややこしい状態だがしかたない(登録を無料にすればいいだけだが、制度を事業化した印刷時代の名残り)。

そういうわけで、BBIPにはE-Bookが少なく、160万点のうち8%の12.8万で、デジタルが多いKindleとは逆である。BBIPのE-Book登録では、アマゾンのCreatespaceが(事業をKindleに移行した関係で)Createspace/Independently Publishedとして表記され、前年比52.4%増の141万点、なんと88.1%である。

つまりISBN登録の9割近くは、アマゾンの Amazon Standard Identification Number (ASIN)に含まれていることになる。米国に関する限り、ほとんどの本はASINにカバーされており、ISBNが特に重要となるのは、書店と図書館のみということかもしれない。

「業界」から離れた出版

にもかかわらず、バウカー・レポートの意味はけっして小さくない。それは(Kindleを視野に入れないとしても)自主出版の印刷本市場が拡大を続けていることだ。なぜ、在来出版(商業出版社)の外の出版活動が活発になっているのか。答は次のようなことだろう。伝統的な出版業界は、商業出版社と書店とそれらの間をつなぐ流通会社から構成される「商業出版」業界であり、それが縮小する一方で、営利目的以外(いわゆる Not for Profit)の出版が拡大し、書店を含む印刷本市場を支えているということだ。なぜかといえば、出版の商業性を結びつけてきた紙・印刷が、メディアとしての地位を失ったということだ。

為替・両替という機能が銀行を必要としなくなったこの時期に、出版が「紙」から解放されたのは当然のことだろう。人が「振込データ」より「紙幣」という「現金」を有難がるのは習慣だ。E-Bookストアより「実体書店」(中国語ではそう呼ぶらしい)と紙の本が嬉しいのもそう。

習慣は「不自由」と感じられるところから消えていく。伝統的に紙と縁が深い京都仏教会では「布施の原点に還る」として、布施のキャッシュレス決済を排する声明を出したそうだが(早い話が「お布施は現金で」)、この習慣がどう残るのかが興味深い。 (10/17/2019)

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