毎日新聞　電子図書館ニュース2021年2月18日

　新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛が続く中、電子図書館（電子書籍貸し出しサービス）を始める自治体やその利用者が急増している。インターネット上で電子書籍を貸し出し、自分のスマートフォンやタブレットで好みの本が読めるサービスだ。米国などに比べ遅れていた電子書籍を巡る議論が進み、コロナを契機に国民の認知度が高まることが予想される。【尾崎修二/東京地方部】

電子図書館は倍増の勢い

　一般社団法人「電子出版制作・流通協議会（電流協）」によると、全国の電子図書館は昨年4月の94自治体から今年2月1日には160自治体（速報値）に増え、今年度中には約180自治体に倍増する勢いだ。

　東京都千代田区の「千代田Web図書館」では、一般書と、著作権の保護期間を過ぎるなどして無料公開されている青空文庫を合わせ約9400点を「所蔵」する。昨年3～12月の貸し出しは1万7958点に上り、前年同期と比べ3倍に増えた。中でも児童書は保育園や学校の休園・休校で4月に323点と急増したという。

　PRにも力を入れ、“リアル”の区立図書館が臨時休館中だった4月下旬、音声読み上げ機能で読み聞かせができる絵本特集ページをWeb図書館上に組んだ。さらに、6月には岩波少年文庫の電子書籍50タイトルを追加し、5月以降の児童書の貸出数は毎月200～500点台で推移している。

　パソコンやタブレット、スマホで本が読める電子書籍のメリットは24時間貸し出しができることで、従来の図書館では比較的少ない資格取得関連の問題集、旅行ガイドも充実する。

　また、一部はテキスト読み上げや文字拡大などの利用サポートもある。運用上、紙の本の図書館と同様、利用者は区内在住などに限られ、貸出期間もある。同時に閲覧できる人数も限っている。

米国に比べ遅れ目立つ電子書籍化

　国内では2010年代に入り、堺市など導入する自治体が徐々に現れ始めた。しかし、財源や利用者ニーズの少なさなどから導入はごく一部にとどまっていた。また、出版社側が貸し出しを認めている電子書籍が少ないため、「所蔵数」が数千程度にとどまる電子図書館が多い。

　一方、先進地とされる米国では、ほぼすべての公共図書館が電子書籍を貸し出すなど積極的な導入が進む。日本では利用者の認知度が低い上、出版、著者、書店、図書館などの利害調整もあり、あまり議論が進んでいなかった。

　内閣府は昨年5月、コロナ対応のための地方創生臨時交付金の活用事例集の中で「（公立図書館の）蔵書情報のオンライン化」を一例として挙げた。電流協によると、この交付金を活用して電子図書館の導入に踏み切った自治体が多かったという。今年度下期には東京都世田谷区などの都市部から栃木県那珂川町、愛媛県伊方町などの地方の町までオープンが相次いだ。

　茨城県取手市も昨年10月から始めた電子図書館の予算5170万円は国の交付金でまかなった。1月末までの3カ月半の貸出数は2087件で、「利用者の多くは40～60代が中心。おおむねスムーズに利用してもらっている」（市教委）という。

　電流協事務局の長谷川智信さんは「電子図書館が急増し驚いている。利用数がコロナ収束後も定着するのか、紙とのすみ分けがどう進むかは不明だが、今回の急増が電子図書館をめぐる議論を加速させるきっかけになるかもしれない」と話している。

電子書籍の貸し出しサービスを実施中の公立図書館（東日本）

＜東北＞

青森県おいらせ町▽岩手県矢巾町、久慈市、一関市▽山形県東根市▽福島県郡山市

＜北関東＞

茨城県筑西市、龍ケ崎市、潮来市、水戸市、守谷市、土浦市、鹿嶋市、取手市、笠間市▽栃木県高根沢町、大田原市、さくら市、日光市、那須塩原市、那珂川町、真岡市▽群馬県藤岡市

＜南関東＞

埼玉県桶川市、さいたま市、宮代町、熊谷市、春日部市、三郷市、久喜市、草加市、神川町、鶴ケ島市、坂戸市、戸田市、寄居町、川越市▽千葉県流山市、八千代市、木更津市、船橋市、長柄町、四街道市、館山市▽東京都千代田区、中野区、豊島区、渋谷区、八王子市、狛江市、昭島市、世田谷区、小金井市、立川市、文京区、武蔵野市、多摩市、東京都（都立図書館）▽神奈川県大和市、綾瀬市、座間市、山北町、松田町

＜北信越・静岡・山梨＞

富山県氷見市▽石川県野々市市▽新潟県燕市▽山梨県韮崎市、山梨県（県立図書館）▽長野県高森町▽静岡県磐田市、浜松市、熱海市

（電子出版制作・流通協議会調べ。2月17日までの判明分）