NHK2021年2月20日電子図書館

コロナ禍で急増の電子図書館 究極のサブスクになり得るか?

  • 2021年2月20日
  • https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20210220.html

24時間365⽇、いつでもどこでも本を借りることができて、読むのはスマホやパソコン上。期限が来たら出向かなくとも⾃動的に返却されてしまう…。そんな便利な「電⼦図書館」がいま、注⽬されています。コロナ禍で導⼊が進み、市⺠の約2割しか利⽤していないとされてきた図書館という存在を、⼤きく変える可能性があります。 
本当に使い勝⼿はいいのか、普及に向けた課題は何か、取材してみました。(記事の最後には、関東甲信越の電⼦図書館の⼀覧もあります)
(アナウンス室/浅野達朗)

東京・千代田区の電子図書館を利用してみた

電車やエレベーターの中、皆さんはスマホで何を見てますか?
私はついついSNSをのぞきがちだったんですが、最近では電子書籍を読んでいます。

雑誌や漫画から小説・ビジネス書まで、タップ(クリック)一つで買えてしまうので、カードの請求を見てびっくりすることも。節約しなくてはと思っていた中、以前取材で伺った東京・千代田区の区立図書館が「電子図書館」のサービスを行っていることを思い出し、早速取材させてもらうことにしました。

利用方法は簡単です

「千代田Web図書館」は本来、「区在住」「区内に勤務」「区内に在学」の人しか会員になれませんが、今回は取材のために仮のIDとパスワードを発行していただき、試してみます。

トップページには、「新着資料」「ランキング」「特集」などの電子書籍が並んでいます。

ここでお目当ての本を選んで「借りる」ボタンをクリックすればすぐに借りられます。簡単です。
ちなみに、基本的に1冊につき1人までしか借りられません。図書館がその本を2冊分買っていれば、一度に2人が借りられます。

すでに借りられている本は、「予約」ボタンになっていて、ボタンを押すと順番待ちに⼊れます。

人気の本は何十人も順番待ちしていることもあり、紙の本と同じ感覚です。

検索もできます。

ためしに「芥川龍之介 羅生門」と検索すると、ありました。
著作権が消滅している、いわゆる「青空文庫」なので、「借りる」ではなく「読む」ボタンになっています。
そして「読む」ボタンを押すと、すぐに本文が出てきました。

タップ(クリック)してページを進めたり戻ったりするほか、自動音声による読み上げや、字の大きさ調節、白黒反転の機能もあり、視覚に障害のある人も、使いやすい仕様になっています。そして返却期限が来ると、自動的に返却され、端末に表示されなくなります。
やってみて思ったのは「簡単」「便利」に尽きます。図書館に通って借りるあの手間が嘘のようです。https://movie-a.nhk.or.jp/movie/?v=mx32jrr0&type=video&dir=WxX&sns=true&autoplay=false&mute=false

再生すると音声読み上げが始まります

SNSで実際に電子図書館を利用している人の声を探してみると、同じような感想が並んでいました。

「今のところ1000冊だけらしいけど、1冊は読みたいやつがあるはず。図書館行かなくていいし、電子書籍の体験できるし、SNS見る代わりにスマホで本読めたらいいな~!」

「書籍は読み上げ機能があるので、何かしながら耳読できるのもよい。蔵書は少なめだからもっと増えてほしいです」

コロナ禍で予約数12倍に

千代田区立図書館は、2007年に全国にさきがけて本格的に電子図書館を導入しました。現在、電子書籍の蔵書数は全国トップクラスのおよそ1万冊です。去年4月の緊急事態宣言の際、紙の図書館は休館しましたが、電子図書館の方はそのまま開館し続けました。その結果、去年4月の予約数は前年同月比のおよそ12倍あまりの1000冊。「巣ごもり需要」もあり、料理本や読み上げ音声のついた絵本がよく借りられたと言います。

千代田区立図書館 電子図書館担当の阿部範行さん
「コロナ禍で予想以上に利用者が急激に増えて驚くと同時に、利用して頂きうれしいです。
千代田区という土地柄、利用者は、出版社や官公庁で働く人が多いのですが、在宅勤務が増えたこともあって利用者が増えました。さらに、利用者からは『人が触った本を触らなくて良い』『数冊単位で借りる時と返す時、重くて持ち運びが辛いので電子書籍だと助かる』といった声が聞かれます」

コロナ禍で増える電子図書館

電子図書館の導入は、全国の自治体で急速に進んでいます。一般社団法人「電子出版制作・流通協議会」によりますと、2020年に電子図書館を導入した自治体の数は53で、2019年の10倍以上に上っています。さらにことしは、3月末までに40の自治体が電子図書館を導入する予定だということです。

出典:一般社団法人 電子出版制作・流通協議会

電流協 長谷川智信さん
「アンケートを行ったところ、導入の理由の一番はやはり新型コロナウイルスの感染拡大です。リアルの図書館が休館されることになっても電子図書館は開いていけるので、導入を決めた所が多いです。そして導入した図書館の評判を聞いて、さらに周辺の図書館も導入するパターンが多いようです」

出版社から見た電子図書館は

まさにニューノーマルの時代にふさわしい電子図書館。でも有料で本を売る出版社はどう見ているのでしょうか。複数の出版社の社員や関係者が次のように話してくれました。

出版社Aさん
「ちょっと前までは会社内でも、電子図書館は『紙の本の敵』『書籍販売の敵』という雰囲気はありました。しかし公共の福祉であるということで、大手を振って批判しづらい部分はありました」

出版社Bさん
「電子図書館の増加で書籍の売り上げが落ちたかどうか、という数字は出ていないです。売り上げ減という意味ではネットに出回る海賊版の方がよっぽど大きな要因です」

「出版不況」と言われるように、厳しい状況が続く出版業界。しかし、ただ手をこまねいているだけではありません。急増する電子図書館への対応に、さまざまな工夫をしています。

千代田区立図書館などによりますと、電子図書館で貸し出す書籍は図書館がそのライセンスを買います。ライセンスには制限があり、「1ライセンス」では1度に1人だけ、「2ライセンス」では、1度に2人に貸し出せます。利用者の要望などがあれば、図書館側がライセンスを買い足すこともあります。

また、価格は本によって違いますが、だいたい紙の本の2倍~3倍するものが多いと言います。さらにその多くは2年、または52回の貸し出しという期限・制限が設けられています。2年経つと、図書館がその電子書籍のライセンスを買い直さない限り、利用者は読めなくなってしまいます。

出版社は、電子書籍の全てを図書館用に販売しているわけではありません。売り上げを伸ばしたい新刊本などは販売しなかったり、逆に単価が高く読者が比較的少ない学術書などは図書館に積極的に販売したりするところもあると言います。

こうした中で最近では、電子図書館に対する見方も変わりつつあると言います。

出版社Bさん
「今では社内の雰囲気は変わってきていて、電子図書館に、まだ漠然とですが期待をしています。スマホやタブレットなどから今まで書籍に触れなかった人が触れるようになって、波及的に書籍や関連グッズなどの売り上げが増加する、という期待があります」

出版社Cさん
「紙の本の電子化、電子図書館への販売は、今までは人手が多く資金力もある大きな出版社が中心でしたが、メリットが大きくなれば、今後は小さな出版社も電子書籍をさらに出して、電子図書館で読める本のバリエーションも増えるのではないでしょうか」

図書館は市民の2割利用 電子図書館は…

電子図書館は、読書のあり方や、図書館と出版社の関係などにどう影響するのか。
電子図書館や図書館の運営に詳しい、専修大学の植村八潮教授に聞きました。

「そもそも図書館は市民の2割しか利用しないと言われていますが、電子図書館は、残りの8割の人も利用してもらえるような、極めてハードルが低く、期待の持てる公共サービスです。今の一番大きな課題はやはり点数が少ないこと。『欲しい本が電子書籍になっていない』『電子図書館に置いていない』などの苦情が聞かれます。その大きな原因は、図書館の予算的な問題ですが、地域住民や行政からの声があがれば、図書館は動きます。まずは地元の図書館に要望を伝えることが重要です」

また、植村教授は、図書館の電子化が進めば、その役割が大きく変わってくると指摘します。

「今後は学校でデジタル教科書の導入が進んで、子どもやその家族の電子書籍への理解やニーズが高まることが予想されます。また、地域の図書館にある郷土・歴史資料などがデジタル化され、世界のどこからでもアクセスできるようになるほか、絶版本など過去に出版された本も全て読めるようになります。しかも中身の全文検索もできるようになれば、今のインターネットよりも、よほど信頼性の高い情報に、簡単にアクセスできるようになります」

コロナ禍がきっかけに増えた電子図書館。これまでの「読書」という行為がただ便利になるというだけでなく、人類がそれぞれの地域で積み重ねてきた「知」に簡単にアクセスできる仕組みへと大きく変化する可能性を秘めていると感じました。

この記事の最後に、2021年2月2日現在の各地の電子図書館の一覧をつけます。あなたも是非、一度、地元の電子図書館を利用してみてはいかがでしょうか。

公共図書館 電子図書館サービス(電子書籍貸出サービス)実施図書館(2月17日現在)

 自治体  電子図書館名称 

茨城県 筑西市 筑西市立電子図書館
茨城県 龍ケ崎市 龍ケ崎市立電子図書館
茨城県 潮来市 潮来市立電子図書館
茨城県 水戸市 水戸市電子図書館
茨城県 守谷市 守谷市電子図書館
茨城県 土浦市 土浦市電子図書館
茨城県 鹿嶋市 鹿嶋市電子図書館
茨城県 取手市 取手市電子図書館
茨城県 笠間市 笠間市電子図書館

栃木県 高根沢町 高根沢町電子図書館
栃木県 大田原市 大田原市電子図書館
栃木県 さくら市 さくら市電子図書館
栃木県 日光市 日光市立電子図書館
栃木県 那須塩原市 那須塩原市電子図書館
栃木県 那珂川町 那珂川町電子図書館
栃木県 真岡市 真岡市電子図書館

群馬県 藤岡市 藤岡市電子図書館

埼玉県 桶川市 桶川市電子図書館
埼玉県 さいたま市 さいたま市電子書籍サービス
埼玉県 宮代町 みやしろ電子図書館
埼玉県 熊谷市 熊谷市立図書館電子書籍
埼玉県 春日部市 かすかべ電子図書館
埼玉県 三郷市 三郷市電子図書館
埼玉県 久喜市 久喜市電子図書館
埼玉県 草加市 草加市電子図書館
埼玉県 神川町 神川町電子図書館
埼玉県 鶴ヶ島市 鶴ヶ島市電子図書館
埼玉県 寄居町 寄居町電子図書館
埼玉県 川越市 川越市立図書館電子書籍サービス
埼玉県 戸田市 戸田市電子図書館
埼玉県 坂戸市 坂戸市電子図書館

千葉県 流山市 流山市立図書館 電子図書
千葉県 八千代市 八千代市電子図書館
千葉県 木更津市 木更津市立図書館 電子図書
千葉県 船橋市 船橋市図書館電子書籍サービス
千葉県 館山市 館山市電子図書館
千葉県 四街道市 四街道市電子図書館
千葉県 長柄町 長柄町電子図書館

東京都 千代田区 千代田Web図書館    
東京都 東京都立図書館 電子書籍サービス 中央図書館・多摩図書館
東京都 中野区 なかのいーぶっくすぽっと
東京都 豊島区 TRC豊島電子図書館
東京都 渋谷区 渋谷区電子図書館
東京都 八王子市 八王子市電子書籍サービス/八王子市図書館オーディオブックサービス
東京都 狛江市 こまえ電子図書館
東京都 昭島市 昭島市民図書館電子書籍サービス
東京都 世田谷区 世田谷区電子書籍サービス
東京都 小金井市 こがねい電子図書館
東京都 立川市 たちかわ電子図書館
東京都 文京区 文京区電子書籍サービス
東京都 武蔵野市 武蔵野市電子書籍サービス
東京都 多摩市 多摩市電子図書館

神奈川県 大和市 大和市文化創造拠点電子図書館
神奈川県 綾瀬市 綾瀬市立電子図書館
神奈川県 座間市 座間市立図書館 電子図書館サービス
神奈川県 山北町 山北町電子図書館
神奈川県 松田町 松田町電子図書館

山梨県 山梨県立図書館 電子書籍
山梨県 韮崎市 韮崎市電子図書館

長野県 高森町 高森ほんともWeb-Library

新潟県 燕市 つばめ電子図書館

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