2021年著作権法改正案

著作権法改正案が国会に提出されました。
図書館資料をネット送信しやすくする措置と、放送番組のネット同時配信を円滑にする措置です。
特に後者の議論にぼくは参加してきました。
すんなり制度化されることを望みます。

放送同時配信の措置は4点あります。

  1. 権利制限の配信への拡充
  2. 許諾推定の創設
  3. 集中管理されていないコンテンツの許諾不要・報酬支払い
  4. 裁定の拡充
  5. 学校教育番組や国会演説など、許諾なく放送できるものを配信でもOKにする。
  6. 放送で利用OKの許諾をもらったものは、特段の意思表示がなければ、配信でも許諾ありと推定する。
  7. 裁定制度を配信にも拡充する。
    放送と配信とで扱いが違った仕組みを、並びにします。

そして、ぼくがより大事だと思うのが3.です。
集中管理がなされず個別に配信の許諾を得るのが負担となるレコード・実演と映像実演の利用を円滑にするものです。
レコード・実演は放送では許諾が不要ですが配信の場合は許諾が必要。ただ、集中管理されているものは円滑に処理されています。

今回の改正は、集中管理されていない、いわゆるアウトサイダーやノンメンバーと呼ばれるコンテンツについて、補償金を払えば許諾なく使えるようにする仕組みです。
集中管理と補償金付き権利制限をミックスさせる、「混合型」と呼ばれる制度の発明です。

映像の実演については放送も許諾が必要ですが、再放送では許諾不要とする特例があります。再放送の配信も、集中管理されていないものについて、報酬を払えば許諾なしOKとする仕組みを作ります。
これらにより、通信・放送融合に対応する著作権の制度が一挙に整います。

通信・放送融合という言葉が生まれて30年近く。
海外では放送ネット配信は当たり前で、日本だけがネットで同時に見られませんでした。
2020年にNHKがようやく開始。道をひらく放送法改正の国会審議に呼ばれたぼくは「12年遅い」と証言しました。
今回の著作権法改正はもっと遅かった。

論ずべきタイミングは多々ありました。

送信可能化権を作った1997年。
電気通信役務利用放送法を作った2001年。
通信放送法体系をガラポンにした2010。
でも放送側は及び腰で、著作権が問題だという指摘はここ2-3年のことです。
ラジオ同時配信radikoから10年。テレビ同時配信が始まるまで待ったわけです。

はたから見れば、デジタル敗戦国として待ったなしの課題であり、海外の制度と歩調を合わせるべき。
ですが、前進させるためには、まずステイクホルダーのみなさんの意見集約、調整が必要です。

また、本件は通信・放送の法制度ともリンクします。
著作権制度と通信・放送法がバラバラに議論されてきたことも問題の一因でした。


著作権は民間の利害対立問題でして、肉の世界です。
ビジネス+政治です。
アカデミズムなど第三者の審議会に委ねるなどフィクションです。
ダビング10の際に痛感したように、行政がそれを解決する力も持ち得ていません。
「ダビング10にみる霞ヶ関の失墜」
https://ichiyanakamura.blogspot.com/2010/03/10.html

ステイクホルダーの経営者たちが、対峙する相手の親分とサシで握って妥結して、政治にもスジを通して、全方位に「しゃーねーな」と言わせる。
制度は、その上で審議会→政府→国会に落とし込む。
文化庁の会議室の外でコトを進めなければ進みません。
すんなりと制度論が片づくとは思いませんでした。

ぼくは、放送側の切る仁義が弱い、と感じていました。
制度を改正するメリットをもっと権利者や消費者に示すべき。
制度改正へ向き合う真剣さをもっと見せるべき。
しかし、切迫感も後押しして、予想したほどの波乱はなく成案に至りました。
文化庁と総務省がかなり汗をかいたようです。

文化庁の会議でぼくは「この厄介な案件を短期間に調整し、法案まで落とし込んだ文化庁と総務省の対応を評価する」とコメントしました。たまにはホメる。
「法案の策定を巡っては内閣法制局が壁となって政府部内の調整に苦しむ姿を何度も見てきた。本件は順調に進むことを願う」と追加しました。

また、許諾推定について総務省・文化庁の関与のもとガイドラインを策定する、補償金も同様にスキームを構築する、こととされています。
「著作権制度は官民での共同規制やソフトローの対応が弱かった。法制度の策定と並行して、こちらに力を注ぐよう、官民の関係者双方にお願いする。」とも申し添えました。

ハードローの成立、ソフトローの整備。これで長年の課題が一段落します。
肝心なのは放送業界が制度を使いこなし、ビジネスとしてネット対応に本腰を入れること。
ボールは投げられました。

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