厚木「シロコロ」商標権騒動

B-1王者「シロコロ」名称騒動は今 コロナ禍「厚木ホルモン」で活路

2021年6月20日 11:00

ご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」を制したことで広く世に知られた神奈川県厚木市の名物で、豚ホルモン焼きの「シロコロ」という名称が商標権をめぐるトラブルによって使えなくなって1年余り。市内経済の一端を担う提供店はコロナ禍とのダブルパンチにあえぎ、飲食店街は活気を失っている。しかし、騒動の後遺症が市内に影を落とす中にも、新しいネーミングを定着させようとする前向きな動きがようやく出てきた。

「名前が使えなくなったといっても、市内にもともとあった名物。味が変わるわけでもなく、引き続きPRに努めていくしかない」

厚木市の小林常良市長(72)が記者会見でこう話し、苦々しい表情を浮かべたのが昨年3月。翌4月以降は、市の名物に「シロコロ」の名称を使うことができなくなった。

店主らは恨み節


背景にあったのは、名称の商標権をめぐるトラブルだ。それまで10年以上にわたり、官民一体でPRしてきたが、活動の中心となっていた民間の個人2氏が、市に対して商標権の買い取りを要求。交渉が決裂すると、名称の使用差し止めを提供店や市に求めたのだ。

以降、提供店は「シロコロ」の名称をメニューや看板から消去するなどの対応を余儀なくされた。市も刊行物や「ふるさと納税」の返礼品から名称を削除するなど対応に追われた。

そうした「シロコロ騒動」から1年余り。以前の提供店はそれぞれ、「シロ」や「シロホルモン」など、まちまちな名称を用いて営業を続けている。ただ、経営者らの表情は芳しくない。

看板商品の〝名前〟を奪われる形となったため、「全国に浸透した名前なのにホームページなどで使えなくなった。検索で探し当ててくれる客が減ったようだ」(提供店店主)などの恨み節が聞こえてくる。

 この1年は、コロナ禍も経営に追い打ちをかけた。市内にある提供店の一つ「おひさま」は、土日の昼間のみの営業に変更するなど、追い詰められている。店主の鮫島さち子さん(71)は「店を開けていても客が全然来なくて、1、2組だけの日もある。今は協力金でしのいでいるが、いずれ店じまいも考えなければならないかもしれない」と嘆く。

騒動でイメージ悪化


 提供店を筆頭に、通常なら営業しているはずの時間帯に閉まっている店舗が目立ち、厚木の飲食店街は閑散としている。提供店の一つ「千代乃」の店主、島津英俊さん(70)は「コロナが収束するまで耐えるしかない」と話し、諦め顔だ。

 平成18年に始まり、ご当地グルメブームを巻き起こしたB-1グランプリ。全国各地の参加団体がこぞって商品の発掘や開発に勤しむなか、厚木市の「シロコロ」は「富士宮やきそば」(静岡県富士宮市)や勝浦タンタンメン(千葉県勝浦市)などと並び、全国に名をとどろかせた成功事例の一つだった。

 「名物」を新たに創作する参加団体も少なくなかったが、厚木のホルモン焼きは、もともと地元で伝統的に食されてきた名物だった。そこに「シロコロ」の名称が〝後付け〟され、20年大会の優勝で一躍有名になったという経緯がある。

 食を通じたまちおこしに一度は大きな成功を収めたものの、一転してイメージの悪化を招くという結末に、多くの市民や行政関係者が複雑な心境をのぞかせる。ある関係者は「商標権のトラブルでイメージが悪化した。元のもくあみどころか、宣伝しにくくなった分、元より悪い」と話し、「個人のビジネスに店舗や行政など多くの関係者が振り回された」と憤る。

ホルモン全体をPR


一方、「シロコロ」の名称になお愛着を示す関係者も。「名前は今でも通じるし、会話のなかで使う分には問題ないでしょう」と話すのは、「シロコロ」のPRに当初から関わったという市議の一人。「みんなが一丸となっていた時代が懐かしい」と目を細める。

新たな動きも見られている。市は新しいパンフレットなどで「厚木ホルモン」という名称に切り替えてPRを始めた。観光振興課の担当者は「厚木は豚のまち。(大腸の)シロだけでなく、レバーやハツなど、ホルモン全体を売り出していく。新しいネーミングで、名物としての存在感を高めたい」と意気込む。

多くの関係者を巻き込みながら、痛手を負うこととなった「シロコロ騒動」。今後、まちおこしを進める中で行政は、市民とのかかわり合い方が改めて問われることになりそうだ。

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