静岡新聞 電子図書館

「電子図書館」悩み多く 来館せずとも貸し出し可能、利点多い一方… 静岡県内、予算や契約上の制限など課題

2024.5.6

 静岡県内でデジタル書籍のサービスを運用している10の市立図書館のうち7割が、予算不足を課題と認識していることが5日までに判明した電子図書館。システム導入のために予算や人員を増やした施設はほとんどなく、現場からは「紙と電子の両方を充実させるのは難しい」との声が漏れる。県外では、維持管理の困難さから電子図書館を休止した館もある。

3月からスタートした電子図書館サービス=3月下旬、静岡市立中央図書館
3月からスタートした電子図書館サービス=3月下旬、静岡市立中央図書館

3月から電子図書館をスタートさせた静岡市立図書館。図書館流通センター(東京都)が提供するシステムを導入し、小説や実用書などの電子書籍1525点を購入した。購入費用501万円の半額を国の交付金でまかなった。電子書籍は契約上、2年間もしくは52回の貸し出しで使用できなくなるものが多く、引き続き利用するには、その都度買い直す必要がある。 「図書館全体にかけられる資料費は年々削られている。デジタルを充実させると、紙の本にかける予算が圧迫されることになる」。紙とデジタルコンテンツ双方の維持や充実に担当者は頭を悩ませる。 「人員不足による1人当たりの業務量が増加している」(県東部の市立図書館)、「利用方法の周知が課題」(県西部の市立図書館)などの声も上がる。劣化や破損の心配がないことや、来館しなくても貸し出しができることなど利点も多い電子サービスだが、運営面で課題が山積している現状が垣間見える。 神奈川県の松田町図書館は、2020年11月に新型コロナ対策の一環としてサービスを開始したが、22年3月に休止。町の自主財源が少ない中で、電子書籍の維持管理が負担になったことや利用者数が伸び悩んだことから決めたという。担当者は「民間企業が供給する便利な電子媒体が多くある。限られた予算で同様のサービスを提供するのは難しい」と吐露する。 静岡県東部の市立図書館の担当者は「今後サービスの需要はさらに増してくるだろうが、今の状況のままではシステムの維持が困難。財源の補填(ほてん)や運用構造の改革が必要」と、松田町と共通の課題を訴える。 (社会部・鈴木志穂)「PR活動が鍵」 館外体験会も 時間的・地理的な理由で来館できない市民へのサービス拡大を実現する電子図書館。メリットの一方で、予算や人員不足、貸し出し可能な資料の少なさなど、多くの課題も抱える。 専修大文学部の野口武悟教授(図書館情報学)は「デジタルでの提供が主流になっているジャンルもあるほど、出版の電子化はどんどん進んでいる。課題はあるが、公立図書館による電子サービス整備は必要不可欠な時代」と指摘する。 課題解決の鍵として、利用促進のためのPR活動を挙げる。利用を活発にすることで、事業者との契約内容の改善や、寡占的市場への新規参入につながることを期待する。県外には他の公共施設に電子図書館を利用するための端末を設置したり、商業施設で体験会を開いたりする館もある。野口教授は「サービスを館外に拡張するための電子図書館だからこそ、広報活動を含め、枠にとらわれないアプローチで挑戦を」とエールを送る。全国一の貸出、閲覧数 京都・福知山市立図書館 小中学生の朝読書に着目 電子図書館運営の好事例としては、京都府の福知山市立図書館が知られる。2022年1月にサービスを開始し、22年度の人口1000人当たりの貸出数と閲覧数で全国1位を獲得した。 同市によると、運用開始と同時に、市

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