POD

https://www.ebook2forum.com/members/2019/10/pioneering-private-editions-in-the-digital-world-1/

PoDと本当のデジタル革命 :(1) 手づくり出版+PoD

アマゾンが15年あまりにわたって取組んできたPoDは、昨年 KDP Printとして完成し、世界展開に入った。米国に続き、カナダに展開しているが、Koboもフランスで FNAC/Bookelisとの提携により同様のサービスに入ることを発表した。自主出版+PoDは新しい段階に入り、旧出版(版元+書店)と社会に大きな影響を与えることになろう。

「PoD私家版」の登場

Low Content Publishing (LCP)という聞きなれないことばを耳にしたのは比較的最近のことだ。これは文字量が少ないコンテンツを指す印刷業界用語のようだが、PoDによってLCPが注目されたのは、印刷形態が理想的だが、印刷・製本・流通単価が高く、これまで機会に恵まれなかった小部数(大部分は非商業的)印刷物がKDPでおカネになることが知られるようになったためだ。

BookelisはそのサービスをAuto-editionと称している。文字通り「自主出版」だが、伝統的には私家版=自費出版ということだ。2013年にサービスを始めたが、それがアマゾンなどのE-Book出版やグループ出版、図書館などの読書ネットワークと結びつくことで社会的に機能を始めたと思われる。LCDは文字が少なく、図版や写真を多く含み100部前後の私家版(日記、マンガなど)に向いている。マーケティングとコマースのプラットフォームが発達した米国では、インディーズ・クリエイターに注目されているが、デジタルとアナログ、手作り、プライベート・デザイン…という人々が欲しているものを、低コスト、ローリスク、店舗販売、宅配できることから、市場としての多くの可能性を持っている。

Bookelisは、おそらくオリンピア競技や「パリスの審判」の故事に縁のある古代ギリシャのアルカディアの地名(エーリス)からくると思われるが、デジタル時代にも印刷本が好きなフランス人が始めたサービスで、図書館、ブッククラブ、カフェ、ルリユールなど、現代以前の旧読書文化に親しんだ人々のコンセプトだろう。そうした体験価値を安価に実現するためには、デジタル印刷技術の進歩、コマース基盤の充実、SNSマーケティングなどを活用することが鍵になる。今回は小売チェーンのFNACとKoboとの提携となったが、もちろんユーザーは「Kindle」を使うことも出来る。

プライベート・エディションというフロンティア

私家版は近世までの出版で大きな役割を果たしたが、印刷技術と産業の発達で消えていった。近代出版は、印刷・製本における無数の手工業的伝統を均一化する形で知識の普及、市場の拡大を実現してきた。その頂点が高速オフセット印刷だったことは周知の通りだ。ワープロとDTP、デジタルプリンタは、近代に逆行するように、出版を「プライベート化」するように進化してきた。紙を必要としないE-Bookはその頂点といえる。しかし「それは違う」「いやだ」という人がいても当然であり、理想郷アルカディアを夢見るBookelisもそこにフォーカスしたものと思われる。

Web時代は「機械化・画一化」という価値を相対化し、「プライベート化」によって市場を別次元に拡大している。この種の発想は重要であるが、書店のPoDサービスやE-Book販売などのように成功例が少ないのは、ビジネスモデルが複雑で、著者・クリエイターと読者の習慣やニーズに適合していなかったり、経済的合理性がなかったりするためだ。アマゾンが「マス・カスタマイゼーション」で成功しているのは、時代を先取りしているからだ。(つづく (10/29/2019)

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