わずか5年で引退! 鹿児島「電気バス」に見る、深刻な車両問題と普及への高いハードル

 

10/4(火) 11:50配信

電気バス誕生の背景

こしきバス(画像:薩摩川内市)

 

 全国に先駆けて導入された鹿児島県の薩摩川内(せんだい)市の電気バスが、先日引退した。電気バスは次世代バスのひとつとして注目されている。いったいどのような問題があったのか。同バスの愛称は「こしきバス」。JR川内駅と川内港の間を1日4往復する予定で、2014年4月に導入された。車体は韓国ファイバーHFG製で、三菱重工業製の電池を搭載。1回の充電で通常は80km、冷暖房使用時は40km走ることができるとされた。総事業費は車両本体価格約8700万円のほか、設備費など合計約1億円だった。  車両の外装と内装の一部は、工業デザイナー・水戸岡鋭治氏が担当した。災害時の電源車としても利用できるとされ、実際に市の主催した総合防災訓練にも登場している。  全国に先駆けて電気バスが導入された背景には、市の街づくり方針があった。薩摩川内市は九州電力の川内原子力発電所と川内火力発電所が立地し、九州のエネルギー拠点として発展してきた。このうち川内火力発電所は2022年4月での廃止が予定されており、これに代わって、市では太陽光・風力による発電、蓄電器やエネルギーマネジメントシステムの導入を進めていた。  現在、市内にはENEOSグローブ薩摩川内太陽光第1・第2発電所や柳山ウインドファーム風力発電所、小鷹水力発電所が立地。市の総合運動場では屋根に設置された太陽光発電システムが稼働しており、余剰分は九州電力に売却している。  川内駅前の広場にも太陽光と風力発電の設備があり、駅の照明などに使われるほか、防災拠点としても整備されている。また、同市の離島・上甑(かみこしき)島では2017年、市と住友商事、日産自動車の3者で日産自動車の商用タイプ電気自動車「e-NV200」を40台導入するプロジェクトが開始されている。  さらに、スマートハウスや超小型モビリティの実証事業、街路灯の発光ダイオード(LED)化など、次世代エネルギーを使った街づくりが市内で行われてきた。電気バスの導入は、この一貫で始められた。

 

相次いだ故障

こしきバスのデータ(画像:薩摩川内市)

 

 しかし、こしきバスは実用性に欠けていた。故障が相次ぎ、予定した稼働日のうち、運休が 「3割」 にも上った。その結果、運行は2019年3月に終了し(5年間)、非常用電源として保管されることになった。しかし、保管維持が年間約180万円もかかるため、ついに業者に引き渡され、非常用電源としても引退することになった。  エネルギー拠点として、電気自動車の普及を計ったはずが全く機能しなかった。ただ、これを失敗と捉えて本当によいのだろうか。  薩摩川内市と同時期に電気バスを導入したのが、福岡県の北九州市だ。同市では2014年3月、市営バス路線に電気バス2台を導入し、同市若松区のエコタウンセンター~JR戸畑駅間での運行を始めた。こちらも同じく、韓国ファイバーHFG製の車体に三菱重工業製の電池を搭載した。  市内の若松区響灘(ひびきなだ)地区に設置された太陽光パネルで発電された電池を使って動かす、全国初のバスであることが当時発表された。また、熊本県水俣市と並んで、公害を克服した環境モデル都市を志向する北九州市の先進的な取組として注目を集めた。

車体の信頼性を疑問視する人も

薩摩川内市(画像:(C)Google)

 

 しかし、バスは2018年末で廃止になった。特に告知や報道されることなく、2019年7月に開催された「第1回 北九州市営バス事業あり方検討会議」の席上で 「民間会社が購入した電気バスを交通局に5年間貸与されたもので、平成30年度末で貸与期間が満了したこと、また車両が外国製であったことで、稼働率が極めて低かったこともあり、民間会社に返却を行っている」 と報告されるにとどまっている。こちらも薩摩川内市と同じく運休が相次ぎ、韓国ファイバーHFGの信頼性を疑問視する人もいるが、実体は明らかではない。  薩摩川内市は今後に消極的だが、北九州市の姿勢は真逆だ。西日本鉄道は2020年2月、福岡市内のアイランドシティ~西鉄千早駅間で、既存の車両を改造した電気バス2台を導入していたが、これを北九州市にも拡大した。2022年6月から小倉~黒崎・折尾間で1台導入している。  福岡市内のバスは国内事業者が改造したもので、航続距離は35km(想定値)と45km(実績値)。北九州市内のバスは住友商事が出資する台湾最大手の電気バスメーカーであるRAC Electric Vehiclesのもので、航続距離は150km(想定値)だ。CO2削減効果も既存ディーゼルバス比で57%(想定値)となる。

 

地元企業も注力

EVモーターズ・ジャパンのウェブサイト(画像:EVモーターズ・ジャパン)

 

 さらに北九州市ではベンチャー企業のEVモーターズ・ジャパンが国内初の商用電気自動車の量産工場建設を進めており、2023年にも稼働する予定だ。同社はこれまで、中国メーカーに生産を委託していたが、今後は生産拠点を国内に切り替える方針だ。  電気バスは開発途上であることから、これまでトラブルに対応するノウハウが蓄積されていなかった。需要もまだ限られるため、部品のコストも高くつき、CO2削減効果も疑問視されていた。  2022年に入り、関東自動車が宇都宮市の路線バスの半数以上を、2030年までに電気バスに置き換えることを発表するなど、需要はようやく伸び始めている。そのため、今回のようないくつかの失敗事例から、電気バスを否定するのは早計だ。  また、 「海外製の電気バスだから失敗した」 と考えるのも大間違いだろう。これまで、日本でディーゼルバスに代わる本命と見られてきたのは水素バスだ。ところが今、世界市場では電気バスが完全に優位となり、中国と欧州メーカーが市場を席巻している。2021年12月に京都市と京阪バスが導入したのも中国製だった。2022年4月に大阪府で阪急バスが導入したのも同様だ。  そもそも、電気バスは普及するのだろうか。調達を輸入に頼るのか、国内生産を強化するのか、選択肢は山積みだ。簡単に答えは出ない。ただ、導入は積極的に進めるべきだろう。失敗を恐れてはいけない。

県庁坂のぼる(フリーライター)

 

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