日本の芸能界で絶対的な地位を誇るジャニーズ事務所。今回の番組は、帝国にどのような影響を与えるのか

「こういうことが明らかになっても、少年たちが喜多川氏に忠誠心を持っているのは悲しいことである」 番組内では、強い批判の言葉が並んだ。

これは現地時間3月7日21時より放送されたイギリス公共放送「BBC Two」制作のドキュメンタリー『Predator：The Secret Scandal of J-Pop（捕食者：Jポップの秘密のスキャンダル）』の一部である。 同番組は1999年に「週刊文春」が報じたジャニー喜多川氏（享年87）の性加害報道を入り口に、その被害実態に切り込む内容となっている。当時の「週刊文春」は、性被害を訴える少年たち15人ほどに取材を行い、その証言などを14週にわたって報道。喜多川氏による性加害の実態が生々しい描写とともに書かれており、喜多川氏とジャニーズ事務所が、文藝春秋を名誉毀損で提訴するなど大きな波紋を広げた。 今回の番組制作にあたり、BBC取材班は’22年3月から取材を開始。被害を受けたと主張する元所属タレントや当時取材を行った記者らにインタビューを行い、その内容を1時間にまとめている（以下、番組内容の記述箇所については、適宜表現の調整を行なっております）。

たとえばこのようなシーンがある。番組が始まって11分が経過した頃、BBC取材班は、入手したという元ジャニーズJr.の告白を読み上げている。少年の証言によると、ジャニーズJr.が通う「合宿所」で睡眠をとっていたところに、喜多川氏が来て、下腹部を触られたという。行為はさらにエスカレート。少年は、非常に痛かったと証言していた。 また別の少年は、自宅に喜多川氏が訪れた時の話を記者に明かした。証言によると、喜多川氏は両親の隣の部屋に寝ていた少年の部屋を訪れ、同じように下腹部を触り、行為に及んだという。

BBC記者は、 「こういう証言が他にもある。日本社会はこれについて何らかの手を打たなければならない」 と憤った。 番組は進み、放送開始から18分が経過した頃には、ジャニーズJr.に所属していたという人物が顔出しで取材に応じている。「ハヤシ」と名乗るこの人物は、途中言葉に詰まりながら当時を振り返った。 「これは合宿所の風呂場での話です。脱衣所でズボンにジャニーさんの手が掛かって。『自分で脱げます』と言ったら無言だったんですね。それがすごい恐怖心で。そのまんま何もできず、ズボン脱がされ、パンツ脱がされ、靴下脱がされ。（中略）そのあと何人かに『これを我慢しないと売れないから』とか。（中略）テレビを見ながら朝方まで、その日はずっとマッサージ。マッサージというか触ってきたり。ずっと朝まででしたね。明るくなるまでされてたのを覚えているんで。それ以外に泊まった時には、お風呂もありましたし、また夜、それ以上のことがありました」 他にも被害を受けたと主張する元ジャニーズJr.が何人も登場する。

しかし、彼らの中に喜多川氏を悪くいう者はおらず、中には今でも「Love」だと語る人物もいた。BBC記者はそのことに驚きを隠せないと語り、 「30年間も性的搾取が続いているのに、まだ彼の名前を持った会社が繁盛していることが信じられない。しかも、今でも毎年50万ポンド（約8000万円）以上も儲けている。その一部は喜多川氏が性的虐待をしたタレントたちのロイヤリティから入っている」 と疑問を呈している。 そして終盤、BBC取材班はアポイントなしでジャニーズ事務所を訪れている。そこでの対応や、「本社を映すな」という警備員の反応に苛立ち、「会社側には、実際の問題に取り組む姿勢がゼロ。これは象牙の塔だ」と痛烈に批判している。 番組は最後、以下のように締めくくられていた。 「これだけの性的虐待が、よく見える形で行われていて沈黙が続いている。それでも会社はジャニーの名前を掲げて、いかなる意味のある形でこの虐待を認めていない。（中略）喜多川氏は死んでも守られている。彼が虐待をした少年たちや男性がまだ残っているが、自分たちに起きたことを理解するのはこれからだ。審判が下りることもない。子供は守られるべきだということを認めることもほとんどない。これがすべての中で最も恥じるべきことである」 日本でも大きな注目を集めている同番組。3月下旬には日本語翻訳版も公開予定だという。海外から投げかけられた疑問の声に、ジャニーズ事務所はどう向き合うのか。