楽天モバイル なぜ赤字は拡大し続けている?

2023年2月17日

 決算書から日本経済を読み解く本連載。今回は楽天を取り上げます。

 同社は楽天モバイルの投資で苦しい状況にあり、無料プランを廃止したり、社員には契約ノルマが課せられているという報道もありました。また、楽天モバイル店舗の撤退が続いていることも話題になりました。

モバイル事業以降、赤字が拡大 投資が負担に

 今回はそんな楽天がどのような状況にいるのかをモバイル事業を中心に見ていきましょう。

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 ここ数年の売り上げは大きな成長を続ける一方で、楽天モバイルが事業を開始した2019年10月以降では、利益面は大きな赤字が続いています。楽天モバイルへの投資の負担の大きさが分かります。

売り上げは増加、しかし赤字は拡大

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 続いて22年12月期の通期の業績から、楽天の現状を見ていきます。

 売上高は前年同期比14.6%増の1兆9278億円に。営業利益は赤字が拡大し、2126億円の赤字から4078億円の赤字へ。純利益も1338億円の赤字から3728億円の赤字へと、売り上げは増加しつつも赤字幅は拡大しており、利益面では苦しい状況が続いています。

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 直近の第4四半期単体(22年10~12月)の業績を見ていくと、売上高は14.6%増、営業利益は864億円の赤字から768億円の赤字と、直近においても増収は続きつつも大きな赤字が続いています。しかし赤字幅は縮小し、一定の収益性の改善が進んでいます。

 

 大きな赤字が続いている要因は、ご存じの通り楽天モバイルへの投資です。主力事業の4Q単体の業績を見ていくと、

  • 国内EC:売り上げ11.5%増 営業利益21.8%増(290億円)
  • フィンテック:売り上げ7.7%増 営業利益16.4%増(243億円)
  • モバイル:売り上げ75.2%増 営業利益1187億円の赤字→1126億円の赤字

となっています。

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 主力の国内ECやフィンテックは増収増益です。主要なKPIを見てもECの流通総額は12.3%増、楽天カードの取扱高は25.8%増、楽天証券の口座数は21.1%増、銀行の口座数は13.3%増と、楽天モバイルを除けば大きな成長が続いています。

 大きな赤字を記録している楽天モバイルは、同社の今後の業績を考える上で大きなファクターです。

 そもそも、楽天はなぜ格安のモバイル事業を始めたのでしょうか。

大手参入で狂ったユーザー獲得計画 「つながりにくい」ネガティブ評価残る

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 楽天の参入を可能にしたのは、仮想化技術による低コスト化です。同社によれば設備投資は40%削減、オペレーションコストは30%削減ということです。

 とはいえ、これは事業提供者側のメリットでありユーザーのメリットではありません(コスト削減が低料金につながるので全く関係ない訳でもありませんが)。ユーザーが伸びなければ、事業としてはもちろん苦しくなります。

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 ではどのようにユーザーを獲得していく予定だったのかというと、それは低料金です。楽天モバイル参入以前の国内の通信市場は、割高の月額料金がスタンダードでした。

 

 ここに「データ利用無制限で2980円」という低価格のプランで殴り込み、一気に顧客を獲得しようとしたのが楽天モバイルです。しかしご存じの通り、楽天参入後に大手キャリアも格安プランを導入したことで競争力は低下し、料金プランも大きな見直しを迫られました。

 結果としてプラチナバンドを持っておらず、基地局も整備段階だった楽天モバイルはユーザーの「つながりにくい」という評価も目立ち、契約は伸び悩みました。

 楽天だけではなく、他社の格安プランもプラン変更をする人は想定より少なく推移している状況です。その点も当初の想定を下回る要因となっているでしょう。契約は伸び悩み、苦しい状況にいます。

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 回線数は以前から提供していたMVNO回線含め506万回線を獲得していますが、1G以下無料のプランを提供していた第1四半期の568万人回線をピークに減少が続いています。料金プラン変更は一時的な減少要因ではなく、継続して減少が続いてしまっており、顧客獲得は苦戦しています。

一方で無料プランの廃止による課金ユーザーの増加で、22年9月以降の客単価は大きく増加。現在の単価は2510円となっています。

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 楽天モバイルの利用料金は20Gまでは1980円、それ以上は2980円のため、客単価を考えると20G以上を利用しているユーザーが大半だと分かります。

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 実際に楽天モバイルを利用するユーザーのデータ使用料は平均で18.4Gと、他社平均の約2倍です。

 

 楽天モバイルの大きな特徴は、2980円で無制限に使えることです。多少のつながりにくさがあったとしても、低コストで大容量を使いたいユーザーが残っていると見られます。

 このように、データ利用料の多さを考えると、ユーザー当たりの収益性に関しても他社と比べ悪い可能性があります。こうした状況下で、モバイル事業の売り上げはどのように推移しているのでしょうか。

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 モバイルセグメントの売り上げは、基本的には増加が続いています。

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 しかし内訳をみると、モバイルセグメントは楽天エナジーという電力小売事業を含んでいます。第4四半期から売り上げの開示が見当たらなくなったため、直近の内実は分かりませんが、第2~3四半期にモバイルセグメントで大きく伸びていたのは楽天エナジーでした。

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 楽天モバイル単体での売り上げを見てみると、第2~3四半期に関しては、前四半期比で減少が続いています。第4四半期は無料プランの廃止で売り上げは増加に転じましたが、それ以前はモバイル事業の売り上げは苦戦していたことが見て取れます。

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 続いてモバイル事業の利益の推移を見ていくと、売り上げは苦戦した第2四半期以降は赤字幅が縮小傾向です。

 

 契約が伸び悩む中で、継続していた大きな赤字に耐え切れず無料プランの廃止となり、契約数よりも収益性の改善を進めているということでしょう。

黒字化するにはあと「300万契約」?

 ちなみに、どの程度の回線を獲得すれば黒字化できるのかというと、前提が大きく変わっているため参考程度にしかなりませんが、サービス開始時の損益分岐点は月額2980円で700万契約だとしていました。現在の契約数は506万なので194万ほど足りません。

 さらに料金プランも参入時の20G一律の2980円から変わり、現在の単価は2510円です。そのうち、通信料はざっくり2400円ほどと仮定すると、当初の損益分岐点の売り上げには840万契約ほどが必要になります。

 つまり、かなり大まかな推算にはなりますが、300万契約以上の上積みが必要になると考えられます。

 本来であれば、無料プランを継続しさらに顧客を獲得してから無料プランの廃止としたかったのでしょうが、契約が伸び悩み大きな赤字が続く中では収益性の改善を優先するしかなかったのかもしれません。

 無料プランがあるうちに十分に契約数を取り切れず、契約数は減少が続いている現状を考えると、黒字化のハードルは上がっています。

 大きな赤字を垂れ流す楽天モバイルを抱える中、楽天の財務状況はどうなっているのか見ていきましょう。

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 まず資産の状況を見てみると、現預金は4兆6943億円とものすごいキャッシュを持っています。

 

 一方で負債を見てみると、日常的に支払いが必要になる仕入れ債務は4505億円ほど。社債や借り入れは1兆7607億円ほどあります。

 社債は借り入れはすぐに支払いの必要なものばかりではなく、長期的なものが多いため、財務状況には非常に余力があるように見えます。

 しかしながら、楽天は楽天銀行や楽天証券などを抱えており、これらの現預金の大半はこうした金融事業によるものです。特に銀行の顧客からの預金の影響は大きく、その資金はもちろん別で管理されており、当然ながら自由に使える資金ではありません。楽天銀行に預金したら勝手にモバイルの投資に使われていて「引き出しできません」などということが起きたら大問題です。

 このため、楽天の財務状況を見ていく際には金融事業の影響を除いて考える必要があります。

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 金融事業が保有しているキャッシュの額は、楽天銀行が3兆7418億円、カードが5164億円、証券が3089億円、生命が36億円、損保が382億円。計4兆6089億円にもなります。全体の現預金からこれらを除くと、手元の現預金は854億円となります。

 多額の赤字が続く楽天にとっては、かなり現預金の状況は心もとないです。

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 実際に楽天グループ単体の現預金は926億円で、モバイルはほぼ現金を持っていません。

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 キャッシュフローを見ていくと、通期の金融事業を除く営業キャッシュフロー(本業でどのくらいキャッシュを稼いだか)は3228億円のマイナスで、投資キャッシュは4041億円のマイナスです。これだけキャッシュフローのマイナスが続けば、手元の現預金が足りなくなることは間違いないでしょう。

資金調達が加速

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 楽天モバイルの開始以降、資金調達は増加していて、2022年9月までに社債で約6100億円、劣後債で1200億円と、17.5億ドル、10億ユーロ、さらに増資で2423億円や、楽天証券の株式譲渡による800億円の調達などを進めています。

 これ以降も、23年2月10日には円建てで3.3%の利回りの社債を2500億円、また、22年11月と2023年1月にドル建てでは10.25%、割引分も含めると約12%という高利回りの社債を計9億ドル発行しており、積極的な資金調達も話題で、大きく資金を必要としている状況にいることが分かります。

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 そして虎の子の金融事業においても、銀行はHDで上場予定です。資金需要が大きく増しています。

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キャッシュフローはプラスに

 しかし、今回の第4四半期では大きな変化もありました。第3四半期時点の非金融事業の営業キャッシュフローはマイナス3343億円、投資キャッシュフローは3105億円のマイナス。つまり、10~12月で営業キャッシュフローは115億円のプラスになっています。

 モバイルは大きなマイナスが続いているでしょうが、無料プラン廃止による収益性の改善や好調が続く他事業によって、キャッシュアウトは止まりつつあることが分かります。

 そもそもモバイル事業は設備投資の規模が大きく、キャッシュアウトを伴わない費用である減価償却費が大きいビジネスです。

 

 このため営業キャッシュフローに関しては、赤字の額ほどマイナスが大きい事業ではありません。こうした要因も影響しているでしょう。苦しい状況の続く楽天にとっては大きな転換です。

 しかし、投資キャッシュフローは936億円のマイナスが続いています。

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 設備投資に関しては、24年から減少見込みとはなっているものの、23年も3000億円、24年も1500億円など投資は続きます。

 手元資金の状況を考えると、投資を続けるための資金を確保し続ける必要がある状況にいるのは間違いありません。

 先述した通り、この第4四半期以後に高利でも円建てで2500億円、ドル建てで4.5億ドルもの社債による調達を決めている理由が分かります。

 24年からは設備投資の額は大きく減るため、来年以降の投資キャッシュフローまで含めた、キャッシュフローの状況には注目です。

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 なお今後に関しては有利子負債のさらなる積み増しの予定はないとしています。楽天銀行・証券の上場や業務・資本提携も検討しつつ資金は調達していくようです。

 第4四半期は非金融事業での営業キャッシュがプラスに転じたとはいえ、楽天モバイルの契約数減が続く中で、安定してキャッシュフローのプラスの状況が続くかは分からない上、資金はまだ必要でしょうから、まずは子会社上場がうまくいくかに注目です。

カギは「つながりにくさ」改善か

 最後に、今後の業績改善にのために重要な取り組みについても触れておきます。つながりにくいという評価がある程度定着してしまった楽天モバイルにとって、プラチナバンドの導入も重要です。

 プラチナバンドの割り当て自体は決定しており、楽天は24年3月からの開通を目指すとしています。

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 しかし22年11月のプラチナバンド再割り当ての際に出した総務省の移行スケジュールによると、標準5年ほどを要する見込みです。楽天モバイルの目指している24年3月とは差が大きいです。

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 というのも総務省が想定していた移行イメージは、使用開始して以降徐々に無線局数が増えていき、移行が完了するというものです。つまり、楽天が掲げる24年3月とは、文字通り使用開始の時期であって、一部のユーザーが使えるだけということでしょう。

 

 このためプラチナバンドを使用開始できたとしても、無線局数が増えていくまではつながりにくい状況はしばらく変わらない可能性が高そうです。この点を考慮しても、顧客獲得ではしばらくは苦しい状況が続きそうですね。

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 また、楽天モバイルは23年初旬に法人サービスをスタートさせると発表しています。

 ただ、この法人向けも成長の見通しが明るくはなさそうです。

 基地局整備は続くものの、プラチナバンドはまだしばらく時間がかかり、つながりにくい状況がまだ数年かかる可能性があります。また、個人のユーザーが加入する要因である楽天経済圏との相乗効果も、法人契約ではメリットが大きくはありません。顧客獲得が大きく進む要因になるとは考えづらいと言えるでしょう。

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 ちなみに、多くのサービスを提供している楽天ではモバイル単体での黒字化が難しかったとしてもクロスユースが増えることで事業全体でプラスにできれば採算が取れるという強みがあります。

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 実際に楽天モバイルを契約することで、楽天経済圏を利用するメリットが増え、楽天市場の流通総額は年間平均で3万7683円増えたと同社は説明しています。フィンテック事業とのクロスユースの影響などもあり、そういった影響も加味して見ていく必要があります。

 とはいえ、現在の赤字は極めて大きなマイナスです。そもそもの事業の収益性が改善していくかという根本的な問題があります。

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 また楽天は、楽天シンフォニーという楽天モバイルの通信技術を提供する事業があります。

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 この事業の規模は意外と大きく、22年9月時点で9カ国のオフィスに3500人の従業員を抱えています。そして13カ月で31億ドルほど受注をしています

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 これまでの累計売上は5.48億ドルで、直近の第4四半期単体で2.31億ドルとなり、成長が続いています。

 

 楽天の売上規模から考えると現状はそこまで大きいわけではないですが、日本市場での実績が海外での受注につながります。

 このため、クロスセルによる効果や、楽天シンフォニーなども含めて収益性をどれだけ改善していけるかも見ていく必要があるでしょう。

まとめ

 無料プランの廃止など大きく収益性の改善を進めていた楽天では、今回の決算で、非金融事業のキャッシュフローがプラスに転じました。これは大きな転換だったと考えられます。

 とはいえモバイル事業はまだ大きな赤字である上、設備投資もさらに必要な中で手元資金は十分ではなさそうです。

 今後は子会社上場や資本提携などを通じて資金調達をしていくとのこと。子会社上場がうまく進むか、どのような企業との提携を進めていくのかにも注目です。

 また、モバイルは契約数で苦戦しており、事業の状況を見ても黒字化はまだまだ厳しい状況にいると考えられます。短期的にはどれだけ収益性を改善して赤字幅を削減していけるかがポイントでしょう。

 
無料プランを廃止した楽天モバイル なぜ赤字は拡大し続けている?

 決算書から日本経済を読み解く本連載。今回は楽天を取り上げます。

 同社は楽天モバイルの投資で苦しい状況にあり、無料プランを廃止したり、社員には契約ノルマが課せられているという報道もありました。また、楽天モバイル店舗の撤退が続いていることも話題になりました。

モバイル事業以降、赤字が拡大 投資が負担に

 今回はそんな楽天がどのような状況にいるのかをモバイル事業を中心に見ていきましょう。

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 ここ数年の売り上げは大きな成長を続ける一方で、楽天モバイルが事業を開始した2019年10月以降では、利益面は大きな赤字が続いています。楽天モバイルへの投資の負担の大きさが分かります。

売り上げは増加、しかし赤字は拡大

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 続いて22年12月期の通期の業績から、楽天の現状を見ていきます。

 売上高は前年同期比14.6%増の1兆9278億円に。営業利益は赤字が拡大し、2126億円の赤字から4078億円の赤字へ。純利益も1338億円の赤字から3728億円の赤字へと、売り上げは増加しつつも赤字幅は拡大しており、利益面では苦しい状況が続いています。

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 直近の第4四半期単体(22年10~12月)の業績を見ていくと、売上高は14.6%増、営業利益は864億円の赤字から768億円の赤字と、直近においても増収は続きつつも大きな赤字が続いています。しかし赤字幅は縮小し、一定の収益性の改善が進んでいます。

 

 大きな赤字が続いている要因は、ご存じの通り楽天モバイルへの投資です。主力事業の4Q単体の業績を見ていくと、

  • 国内EC:売り上げ11.5%増 営業利益21.8%増(290億円)
  • フィンテック:売り上げ7.7%増 営業利益16.4%増(243億円)
  • モバイル:売り上げ75.2%増 営業利益1187億円の赤字→1126億円の赤字

となっています。

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 主力の国内ECやフィンテックは増収増益です。主要なKPIを見てもECの流通総額は12.3%増、楽天カードの取扱高は25.8%増、楽天証券の口座数は21.1%増、銀行の口座数は13.3%増と、楽天モバイルを除けば大きな成長が続いています。

 大きな赤字を記録している楽天モバイルは、同社の今後の業績を考える上で大きなファクターです。

 そもそも、楽天はなぜ格安のモバイル事業を始めたのでしょうか。

大手参入で狂ったユーザー獲得計画 「つながりにくい」ネガティブ評価残る

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 楽天の参入を可能にしたのは、仮想化技術による低コスト化です。同社によれば設備投資は40%削減、オペレーションコストは30%削減ということです。

 とはいえ、これは事業提供者側のメリットでありユーザーのメリットではありません(コスト削減が低料金につながるので全く関係ない訳でもありませんが)。ユーザーが伸びなければ、事業としてはもちろん苦しくなります。

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 ではどのようにユーザーを獲得していく予定だったのかというと、それは低料金です。楽天モバイル参入以前の国内の通信市場は、割高の月額料金がスタンダードでした。

 

 ここに「データ利用無制限で2980円」という低価格のプランで殴り込み、一気に顧客を獲得しようとしたのが楽天モバイルです。しかしご存じの通り、楽天参入後に大手キャリアも格安プランを導入したことで競争力は低下し、料金プランも大きな見直しを迫られました。

 結果としてプラチナバンドを持っておらず、基地局も整備段階だった楽天モバイルはユーザーの「つながりにくい」という評価も目立ち、契約は伸び悩みました。

 楽天だけではなく、他社の格安プランもプラン変更をする人は想定より少なく推移している状況です。その点も当初の想定を下回る要因となっているでしょう。契約は伸び悩み、苦しい状況にいます。

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 回線数は以前から提供していたMVNO回線含め506万回線を獲得していますが、1G以下無料のプランを提供していた第1四半期の568万人回線をピークに減少が続いています。料金プラン変更は一時的な減少要因ではなく、継続して減少が続いてしまっており、顧客獲得は苦戦しています。

一方で無料プランの廃止による課金ユーザーの増加で、22年9月以降の客単価は大きく増加。現在の単価は2510円となっています。

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 楽天モバイルの利用料金は20Gまでは1980円、それ以上は2980円のため、客単価を考えると20G以上を利用しているユーザーが大半だと分かります。

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 実際に楽天モバイルを利用するユーザーのデータ使用料は平均で18.4Gと、他社平均の約2倍です。

 

 楽天モバイルの大きな特徴は、2980円で無制限に使えることです。多少のつながりにくさがあったとしても、低コストで大容量を使いたいユーザーが残っていると見られます。

 このように、データ利用料の多さを考えると、ユーザー当たりの収益性に関しても他社と比べ悪い可能性があります。こうした状況下で、モバイル事業の売り上げはどのように推移しているのでしょうか。

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 モバイルセグメントの売り上げは、基本的には増加が続いています。

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 しかし内訳をみると、モバイルセグメントは楽天エナジーという電力小売事業を含んでいます。第4四半期から売り上げの開示が見当たらなくなったため、直近の内実は分かりませんが、第2~3四半期にモバイルセグメントで大きく伸びていたのは楽天エナジーでした。

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 楽天モバイル単体での売り上げを見てみると、第2~3四半期に関しては、前四半期比で減少が続いています。第4四半期は無料プランの廃止で売り上げは増加に転じましたが、それ以前はモバイル事業の売り上げは苦戦していたことが見て取れます。

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 続いてモバイル事業の利益の推移を見ていくと、売り上げは苦戦した第2四半期以降は赤字幅が縮小傾向です。

 

 契約が伸び悩む中で、継続していた大きな赤字に耐え切れず無料プランの廃止となり、契約数よりも収益性の改善を進めているということでしょう。

黒字化するにはあと「300万契約」?

 ちなみに、どの程度の回線を獲得すれば黒字化できるのかというと、前提が大きく変わっているため参考程度にしかなりませんが、サービス開始時の損益分岐点は月額2980円で700万契約だとしていました。現在の契約数は506万なので194万ほど足りません。

 さらに料金プランも参入時の20G一律の2980円から変わり、現在の単価は2510円です。そのうち、通信料はざっくり2400円ほどと仮定すると、当初の損益分岐点の売り上げには840万契約ほどが必要になります。

 つまり、かなり大まかな推算にはなりますが、300万契約以上の上積みが必要になると考えられます。

 本来であれば、無料プランを継続しさらに顧客を獲得してから無料プランの廃止としたかったのでしょうが、契約が伸び悩み大きな赤字が続く中では収益性の改善を優先するしかなかったのかもしれません。

 無料プランがあるうちに十分に契約数を取り切れず、契約数は減少が続いている現状を考えると、黒字化のハードルは上がっています。

 大きな赤字を垂れ流す楽天モバイルを抱える中、楽天の財務状況はどうなっているのか見ていきましょう。

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 まず資産の状況を見てみると、現預金は4兆6943億円とものすごいキャッシュを持っています。

 

 一方で負債を見てみると、日常的に支払いが必要になる仕入れ債務は4505億円ほど。社債や借り入れは1兆7607億円ほどあります。

 社債は借り入れはすぐに支払いの必要なものばかりではなく、長期的なものが多いため、財務状況には非常に余力があるように見えます。

 しかしながら、楽天は楽天銀行や楽天証券などを抱えており、これらの現預金の大半はこうした金融事業によるものです。特に銀行の顧客からの預金の影響は大きく、その資金はもちろん別で管理されており、当然ながら自由に使える資金ではありません。楽天銀行に預金したら勝手にモバイルの投資に使われていて「引き出しできません」などということが起きたら大問題です。

 このため、楽天の財務状況を見ていく際には金融事業の影響を除いて考える必要があります。

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 金融事業が保有しているキャッシュの額は、楽天銀行が3兆7418億円、カードが5164億円、証券が3089億円、生命が36億円、損保が382億円。計4兆6089億円にもなります。全体の現預金からこれらを除くと、手元の現預金は854億円となります。

 多額の赤字が続く楽天にとっては、かなり現預金の状況は心もとないです。

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 実際に楽天グループ単体の現預金は926億円で、モバイルはほぼ現金を持っていません。

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 キャッシュフローを見ていくと、通期の金融事業を除く営業キャッシュフロー(本業でどのくらいキャッシュを稼いだか)は3228億円のマイナスで、投資キャッシュは4041億円のマイナスです。これだけキャッシュフローのマイナスが続けば、手元の現預金が足りなくなることは間違いないでしょう。

資金調達が加速

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 楽天モバイルの開始以降、資金調達は増加していて、2022年9月までに社債で約6100億円、劣後債で1200億円と、17.5億ドル、10億ユーロ、さらに増資で2423億円や、楽天証券の株式譲渡による800億円の調達などを進めています。

 これ以降も、23年2月10日には円建てで3.3%の利回りの社債を2500億円、また、22年11月と2023年1月にドル建てでは10.25%、割引分も含めると約12%という高利回りの社債を計9億ドル発行しており、積極的な資金調達も話題で、大きく資金を必要としている状況にいることが分かります。

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 そして虎の子の金融事業においても、銀行はHDで上場予定です。資金需要が大きく増しています。

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キャッシュフローはプラスに

 しかし、今回の第4四半期では大きな変化もありました。第3四半期時点の非金融事業の営業キャッシュフローはマイナス3343億円、投資キャッシュフローは3105億円のマイナス。つまり、10~12月で営業キャッシュフローは115億円のプラスになっています。

 モバイルは大きなマイナスが続いているでしょうが、無料プラン廃止による収益性の改善や好調が続く他事業によって、キャッシュアウトは止まりつつあることが分かります。

 そもそもモバイル事業は設備投資の規模が大きく、キャッシュアウトを伴わない費用である減価償却費が大きいビジネスです。

 

 このため営業キャッシュフローに関しては、赤字の額ほどマイナスが大きい事業ではありません。こうした要因も影響しているでしょう。苦しい状況の続く楽天にとっては大きな転換です。

 しかし、投資キャッシュフローは936億円のマイナスが続いています。

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 設備投資に関しては、24年から減少見込みとはなっているものの、23年も3000億円、24年も1500億円など投資は続きます。

 手元資金の状況を考えると、投資を続けるための資金を確保し続ける必要がある状況にいるのは間違いありません。

 先述した通り、この第4四半期以後に高利でも円建てで2500億円、ドル建てで4.5億ドルもの社債による調達を決めている理由が分かります。

 24年からは設備投資の額は大きく減るため、来年以降の投資キャッシュフローまで含めた、キャッシュフローの状況には注目です。

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 なお今後に関しては有利子負債のさらなる積み増しの予定はないとしています。楽天銀行・証券の上場や業務・資本提携も検討しつつ資金は調達していくようです。

 第4四半期は非金融事業での営業キャッシュがプラスに転じたとはいえ、楽天モバイルの契約数減が続く中で、安定してキャッシュフローのプラスの状況が続くかは分からない上、資金はまだ必要でしょうから、まずは子会社上場がうまくいくかに注目です。

カギは「つながりにくさ」改善か

 最後に、今後の業績改善にのために重要な取り組みについても触れておきます。つながりにくいという評価がある程度定着してしまった楽天モバイルにとって、プラチナバンドの導入も重要です。

 プラチナバンドの割り当て自体は決定しており、楽天は24年3月からの開通を目指すとしています。

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 しかし22年11月のプラチナバンド再割り当ての際に出した総務省の移行スケジュールによると、標準5年ほどを要する見込みです。楽天モバイルの目指している24年3月とは差が大きいです。

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 というのも総務省が想定していた移行イメージは、使用開始して以降徐々に無線局数が増えていき、移行が完了するというものです。つまり、楽天が掲げる24年3月とは、文字通り使用開始の時期であって、一部のユーザーが使えるだけということでしょう。

 

 このためプラチナバンドを使用開始できたとしても、無線局数が増えていくまではつながりにくい状況はしばらく変わらない可能性が高そうです。この点を考慮しても、顧客獲得ではしばらくは苦しい状況が続きそうですね。

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 また、楽天モバイルは23年初旬に法人サービスをスタートさせると発表しています。

 ただ、この法人向けも成長の見通しが明るくはなさそうです。

 基地局整備は続くものの、プラチナバンドはまだしばらく時間がかかり、つながりにくい状況がまだ数年かかる可能性があります。また、個人のユーザーが加入する要因である楽天経済圏との相乗効果も、法人契約ではメリットが大きくはありません。顧客獲得が大きく進む要因になるとは考えづらいと言えるでしょう。

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 ちなみに、多くのサービスを提供している楽天ではモバイル単体での黒字化が難しかったとしてもクロスユースが増えることで事業全体でプラスにできれば採算が取れるという強みがあります。

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 実際に楽天モバイルを契約することで、楽天経済圏を利用するメリットが増え、楽天市場の流通総額は年間平均で3万7683円増えたと同社は説明しています。フィンテック事業とのクロスユースの影響などもあり、そういった影響も加味して見ていく必要があります。

 とはいえ、現在の赤字は極めて大きなマイナスです。そもそもの事業の収益性が改善していくかという根本的な問題があります。

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 また楽天は、楽天シンフォニーという楽天モバイルの通信技術を提供する事業があります。

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 この事業の規模は意外と大きく、22年9月時点で9カ国のオフィスに3500人の従業員を抱えています。そして13カ月で31億ドルほど受注をしています

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 これまでの累計売上は5.48億ドルで、直近の第4四半期単体で2.31億ドルとなり、成長が続いています。

 

 楽天の売上規模から考えると現状はそこまで大きいわけではないですが、日本市場での実績が海外での受注につながります。

 このため、クロスセルによる効果や、楽天シンフォニーなども含めて収益性をどれだけ改善していけるかも見ていく必要があるでしょう。

まとめ

 無料プランの廃止など大きく収益性の改善を進めていた楽天では、今回の決算で、非金融事業のキャッシュフローがプラスに転じました。これは大きな転換だったと考えられます。

 とはいえモバイル事業はまだ大きな赤字である上、設備投資もさらに必要な中で手元資金は十分ではなさそうです。

 今後は子会社上場や資本提携などを通じて資金調達をしていくとのこと。子会社上場がうまく進むか、どのような企業との提携を進めていくのかにも注目です。

 また、モバイルは契約数で苦戦しており、事業の状況を見ても黒字化はまだまだ厳しい状況にいると考えられます。短期的にはどれだけ収益性を改善して赤字幅を削減していけるかがポイントでしょう。

 

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