書店のドン「紀伊國屋」がTSUTAYAと組んだ裏側

2023年12月19日

書店大手の紀伊國屋書店と、「TSUTAYA」などを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、取次(卸)大手の日本出版販売の3社が共同出資する合弁会社「ブックセラーズ&カンパニー」が10月に発足した。

紀伊國屋やTSUTAYA以外の書店も巻き込んだ出版物の共同仕入れなど、大手出版社が主導権を握る出版業界において書店主導の出版流通改革を掲げる。11月に開催した出版社向け方針説明会には211社が集まり、大きな関心を呼んでいる。

ブックセラーズの会長に就任した書店業界のドン、紀伊國屋の高井昌史会長に、新会社設立に至るまでの経緯と勝算を聞いた(インタビューは11月上旬実施)。

川下の書店から改革してやろう

――CCCの増田宗昭会長と髙橋誉則社長が、高井会長に協業を持ちかけたことがブックセラーズ設立のきっかけと聞きました。ライバル関係にあるCCCのトップ2人が、紀伊國屋のオフィスを訪問したのですか。

来た、来た。2022年の暮れぐらいじゃないの?でも、よく来るよ。

増田さんとはプライベートで一緒に地方に行ったり、もちろんゴルフしたこともある。それこそ、佐賀県武雄市にCCCが図書館を作った時、増田さんが「高井さん、ちょっと見てくれよ」と誘ってくれて、僕も図書館に興味があったから訪問した。そして武雄温泉に泊まったよ。こういった普通の付き合いを前々からしていた。

キーワードは「書店からの業界改革」。今までの出版業界では、川上からいろんなことをやってきた。

ただ、身近なところでいうとセブン&アイグループだとか、だいたい小売りからの改革が成功しているんだよ。小売りが問屋を巻き込んで、問屋がメーカーを巻き込んで……というかたちでね。

だから、「よし、川下の書店から改革してやろう」と。いちばんお客さんに近くて、理解しているのだから。増田さんもそう思ってるよ。

――2022年に講談社、小学館、集英社の出版大手3社が、業界外の丸紅を巻き込んで出版流通改革の合弁会社「パブテックス」を設立しました。ブックセラーズも、資金力や、違う分野でのノウハウを持つ外部企業を巻き込んだほうがよかったのでは。

うちとTSUTAYAは十分お金持ちだよ。うちは海外や外商のビジネスが非常に順調。TSUTAYAの財務も一時期よりは弱っているだろうけど、大丈夫だよ。

そこでほかの資本を入れると、ややこしいじゃない。資本力が大きいともなれば、結局傘下にとられちゃうよね。いやだよ。

――出版業界には、出版社が決めた販売価格を書店が守らなくてはならない「再販売価格維持制度」が存在します。これにより、書店が価格決定権を握れないなど、つねに業界の主導権は出版社側にありました。

この業界は書店が非常に弱い立場で、出版社が強かったことは事実だし、今も強い。仲間だから言えるけど、あの4社(小学館、集英社、講談社、KADOKAWA)は強い。

大手4社も協力の意思を示している

――各種の販売施策と並行することで、出版社の収益も拡大できると掲げていますが、電子コミックやライツビジネスの成長が著しい大手出版社は乗ってくるでしょうか。

確かに4社は漫画やアニメ、キャラクタービジネス、それらの海外展開が非常に大きくなった。でも基本的に、ほかの3000社くらいの出版社にそれらはない。東洋経済も含め、5位以下(の出版社)って大変でしょう?

だからたくさんの出版社が、「ブックセラーズと一緒に改革しよう」と思ってくれている。すでに紀伊國屋と朝日新聞出版、TSUTAYAとスターツ出版など、モデルになるような収益向上の事例は出てきている。同じように変えていけばいいわけだ。「紀伊國屋の高井が言ってるから、嫌だとは言えない」という人もいるけどね。

――とはいえ、大手4社が発行する出版物の量は無視できません。

具体的な参加の形はこれから詰めることだが、例えば講談社の野間省伸社長には「協力するよ」と言われている。大手4社に関しては僕が挨拶に行き、4社すべてから協力の意思を示された。

僕が行けなかった出版社にも、CCCの髙橋社長や日販グループホールディングスの吉川英作社長など、出資する各社のトップが設立前から直接説明している。

――仕入れ力の最大化という意味では、出資社以外の書店をより多く巻き込む必要もあります。

「どこまで粗利率が上昇するのか」と懐疑的になっている人もいるし、(日販の競合である)トーハン系列の書店は、そもそも参加が難しいだろう。こういった部分は仕方ないんじゃないの。

ただ書店はね、売上高の上昇や返品率の抑制によって、(現状は2割程度の)粗利率3割が見えてきたら雪崩を打ちますよ。実績が出たら、必ずブックセラーズから発表しますから。そうすれば、「じゃあ、俺のところも」ということになるだろう。

――「業界大手のTSUTAYAと紀伊國屋による出店調整に巻き込まれ、不利益を被るのではないか」などと、他の書店からは難色を示す声も聞こえますが。

それは考えすぎじゃないかな。会社を一緒にしているわけじゃないから、ブックセラーズにそんなことはできないもん。

――より多くの書店から出資を募ったうえで、ブックセラーズを設立することは考えなかったのでしょうか。

将来はわからないけど、こういう話は多ければ多いほど難しくなるから。それよりも先に、同じ志を持っている会社で組んだ。ただ、門戸は開いていく。

CCCの増田さんに伝えたこと

――本をレンタルの集客装置と位置づけ、一気に業界首位へと駆け上がったCCCを、アレルギー的に嫌う書店は多いです。紀伊國屋の社内でも、協業に向けた議論が紛糾したのでは?

そんなことはないんだけどね。レンタルの売り場が少なくなる中で、その部分を喫茶店にしても、雑貨を売ってもいい。ただ、僕も増田さんに「もう少し本を売らなきゃ。本屋に徹しないとだめだよ」とは言った。

うちが本屋として売上高が伸びているのは、本に徹しているから。雑貨や喫茶店などにはあまり手を出していない。新宿の紀伊國屋も相当なお金をかけて大改築し、あれだけのビルをテナントに貸し出すわけでもなく、ちゃんと本屋にした。

「高井、どこかのブランドに貸して、家賃収入を得るほうがずっといいぞ」という人もいるが、本好きの社員が集まって、「どんなことがあっても、一番いい場所で本を売るんだ」「海外でも本屋をやっていくんだ」と。

お客さんもわかるんだよね。本屋に行っても(本屋として)面白くないからと、アマゾンで買ったり、しまいには本を読まなくなってしまう。

――今後、CCCとの協業を拡大していく考えはありますか。

まずはブックセラーズの成功を考えないといけないので、具体的には決まっていない。ただ、TSUTAYAの企画力は魅力的で、それを生かしてうちが海外に店を作っていくことは考えられる。

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